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直木賞候補作家インタビュー「恋愛を通して見えてくる社会」――凪良ゆう

直木賞候補作家インタビュー「恋愛を通して見えてくる社会」――凪良ゆう

インタビュー・構成:「オール讀物」編集部

第168回直木賞候補作『汝、星のごとく』

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

『汝、星のごとく』(凪良 ゆう/講談社)

 凪良さんの候補作は、瀬戸内海に浮かぶ風光明媚な小島が舞台。島で育った十七歳の暁海(あきみ)は、父親が外に恋人を作ったため、精神状態の不安定な母親と暮らしている。転校生の櫂(かい)も母親とのふたり暮らしだが、櫂の母は恋に生きる奔放な女性で、男を追って島に移住。島で唯一のスナックを営む、地域社会から浮いた存在だ。ともに親に翻弄されながら高校生活を送っている暁海と櫂は、惹かれあい、恋に落ちる。

「ずっとBL(ボーイズラブ)の世界で男性どうしの恋愛を描いてきたのですが、BLには必ず揺るぎないハッピーエンドにしなくてはいけないという約束事があるんです。素敵なジャンルではあるのですけれど、十年書いてきて、恋愛のもっと“その先”を追求してみたいと思うようになりました。私自身、人と人が心底理解しあえるとか、一度交わした愛が永遠に続くなんて思っていなくて(笑)、一度オーソドックスな男女の話に挑戦してみたかったんです」

 しかし、いざ着手すると、“普通の恋愛”を描くことに自信を持てず、

「読者に楽しんでもらえないのではないかと不安で、最初のプロットにはミステリー要素、叙述トリック的な仕掛けを入れたんです。でも、担当さんから『書きたいものをまっすぐ書けばいい』と言われて覚悟が決まりました」

 腰の据わった凪良さんは、恋愛を入口にしつつも、島に暮らす若者たちの人生の決断にまで筆を進め、お金の問題の切実さを浮き彫りにしていく。

 父が家を出、進学費用を出してもらえるかどうかさえわからない暁海。いっぽう櫂は漫画原作の仕事が軌道に乗り、夢を叶えるため上京することに。

「今の若い女性でお金の不安がない人っていないと思うんです。仕事を頑張る櫂の姿を書くのも楽しかったですけれど、私と同性ということもあって、暁海がどうやって身を立たせていくかを、渾身の力で描いたつもりです」

 迷った末、島に残って就職することを決めた暁海。同じ仕事をしていても昇進や給料に男女格差が生まれ、交際する男によって自分の序列まで変わる閉塞した土地に身を置き、かろうじて櫂との遠距離恋愛を育むのだが――。

「暁海が感じる抑圧は、島でなくても、日本のどこの地方都市でもあるんじゃないかと思います。でも、若い男性読者の方からの『こんなこといまだにあるの? もうないんじゃない?』という感想を聞いて愕然としました。同時に、この男性読者の素朴な問いこそがまさに現代の女性の息苦しさを表しているとも思ったんです。古風に思われがちなこの小説を、いま、私が書く意味があったかもしれないと」

©講談社

凪良ゆう(なぎら ゆう)

京都市在住。二〇〇六年にBL作品にてデビュー。代表作に「美しい彼」シリーズ等。二〇年『流浪の月』で本屋大賞受賞。近著に『滅びの前のシャングリラ』等。


第168回直木賞選考会は2023年1月19日に行われ、当日発表されます。

(「オール讀物」1月号より)

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