- 2023.09.08
- 特集
【「王様のブランチ」登場】「番組キャストで読書会を開きたい!」――人生と生き方をめぐる小説『マリエ』で著者・千早茜さんが伝えたかったこと
『マリエ』(千早 茜)
ジャンル :
#小説
9月2日放送のTBS系「王様のブランチ」に、今年1月に『しろがねの葉』で直木賞を受賞した千早茜さんが登場。最新作『マリエ』に込めた思いを語りました。
千早さんといえば、これまでも、生きづらさを抱えた人たちの少し不思議な関係性を描いた『あとかた』『男ともだち』などの作品で、多くの読者を獲得してきています。
そしてこの8月に刊行された最新作『マリエ』は、40歳を目前に夫から離婚を切り出された主人公が、その後さまざまな出会いの中で新たな生き方を模索し、本当の幸せを探す長編小説です。
千早さんは、この作品にどんな思いを込めているのでしょうか。
ブランチレポーターの榎本ゆいなさんがインタビュアーとして質問を投げかけながら、番組は進んでいきます。
――この作品の、アイデアのきっかけはありましたか?
千早「プライベートなことなんですが、2年半前に離婚しまして、離婚直後にまわりからの対応とかでいろいろ考えること、思うことがあって……」
――ご自身の体験みたいなものが詰まっている?
千早「けっこう入っている方の小説ですね」
――読んでみて、「人生や生き方」の小説だな、と感じました。
千早「その感想、めっちゃ嬉しいです」
結婚だけでなく、離婚も幸せのための選択なのでは?
物語は、主人公の桐原まりえが40歳を目前にしたある日、「恋愛をしたいからちゃんと別れたい」と夫の森崎から突然離婚を切り出されるところから始まる。森崎に訊ねると、「他に相手はいない」と言いはるのだが…….。
“納得はできていないし、わからない。
けれど、応じたのは、森崎が「ごめん」と言わなかったからだ。”
まりえは立ち直れないほど落ち込むのか、と思いきや……。
“自分のためだけに時間を使えるので、今は仕事も生活も絶好調ですね。”
寂しさよりもむしろ、自由に生きられる生活を楽しんでいくのです。
実はここにも、千早さん自身の体験が投影されています。
千早「私にとって離婚は全然ネガティブなことではありませんでした。子供がいない、ということもあったけど、幸せのための選択でした。結婚は幸せのための選択、と言われるけど、離婚だって実はそうですよね。でも、離婚だとこんなに腫れ物感があるんだなあ、不思議だなあ、という気持ちで描いています」
――いろんな登場人物が出てきますが、みなさん、すごくリアルで。
千早「いそうですよね。さまざま取材もしたんです。まりえは離婚してから結婚相談所に行くんですが、実際同い年の編集者と取材に行ったんです。そこで受けたカルチャーショックな出来事を、作品にしっかり書いています」
世間のイメージが本当に正しいのか、自分の頭で考えてほしい
まりえは、ちょっとした好奇心から、結婚相談所を訪れます。そこでは、担当者から、年収や学歴、結婚歴、また役場で取得できる独身証明書の提出も求められる。
“独身だと偽って、出会いを目的に入会する既婚者がときおりいらっしゃるのです。邪魔者を省かなくてはいけませんから。”
また、相談所で紹介された男性たちは、初対面で親の介護を求める人や、自分の話したいことしか話さなかったり、まりえと目も合わさない無口な人など、あまりにもさまざま。
結婚相談所で出会った香織という女性は、こんなことをまりえにアドバイスする。
“女が自分よりいい大学を出ていたり、背が高かったり、今時のおしゃれをしているだけで傷つく男がいっぱいいるんです。だから、ちょっと下に見せておくんですよ。”
こうしてまりえは結婚に対する新たな価値観と向きあっていく。
千早「何かを選択する時に、けっこう人って、『不幸にならない道』を選んでしまうことが多い。たとえば『結婚しなきゃ、老後1人になって怖いよ』とか、そういった“呪い”がいっぱいあるじゃないですか。でも、その呪いを避けようとして『不幸にならない道』ばかり選んでいくのは、決して最適解ではない気がしています。この作品を通して、幸せについて考えてほしかったですし、離婚とか、世間のイメージって本当に正しいの、自分の頭で考えていただけたらな、という気持ちがあります」
その後マリエは、結婚相談所とは別に、7歳年下の男性由井くんと出会い、関係を深めていく。7つの年の差に気持ちは揺れながら、『不幸にならない道』=『不幸にならない選択』ではなく、『幸せになるための選択』をしていくのだった。
“私の幸も不幸も私が決める。そう、決めた。”
一人の女性が新たな生き方を模索し、一歩前に踏み出す物語。インタビュアーを務めた榎本さんは、改めて『マリエ』についてこう語ります。
「物語の中でいろいろな価値観を持つ人たちが出てくるんですけれど、その人達が正解を教えてもらう、というよりは、マリエ自身が悩みながら生きていくので、自分自身も自然とまりえと一緒に悩んでいくような、考えをたくさんめぐらせられるような、そんな作品です」
MCの佐藤栞里さんもこの小説について、「読書会を開いてみたい」と興味津々。
「(インタビュアーを務めた)ゆいなちゃんを筆頭に、みんなで読んで、話し合いをしてみたいですね。いろんな意見が出てきそうです。幸せとは何か? とか」
読者がそれぞれに自分の生き方、幸せについて考えるきっかけとなる、そんな一冊だ。