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千早茜さん『マリエ』読書会

千早茜さん『マリエ』読書会

『マリエ』(千早 茜)


ジャンル : #小説

離婚からはじまるアラフォー女性の人生探しの物語を高校生はどう読んだか

「共感」に注目した高校生たちの感想が聞きたい

『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞した千早茜さん。最新刊『マリエ』は40歳を目前に離婚した女性が新しい人生を模索する現代小説だ。第10回高校生直木賞でも『しろがねの葉』を巡って熱い議論が交わされたが、高校生たちは『マリエ』をどう読んだか――。千早茜さんをお迎えして、高校生直木賞参加生徒の皆さんとの読書会が開催された。

 千早さんは、この読書会の開催にあたって、「『マリエ』は離婚からはじまる物語で、大人の恋愛観や結婚観、人生観を書いた作品なので、高校生に読ませていいものか、と迷いましたが……」と笑いながらも、高校生直木賞のレポートを読んで、「共感」が議論のポイントになったことに注目。
「もともと、小説の評価で、共感性が優位にくることに疑問がありました。『男ともだち』もそうですが、主人公に共感しにくい物語をむしろ書こうと思ってきましたし、高校生直木賞でも“共感”が話題になったことが興味深かったので、『しろがねの葉』を読んでくださった高校生の皆さんが『マリエ』を読んでどう思ったのか、お伺いできるのが楽しみです」と挨拶した。

『マリエ』を書く時に意識したこと

――『しろがねの葉』は間歩(まぶ)の暗さや、空気感の描写が凄かったと思いました。『マリエ』でも、匂いや、光の描写が素晴らしくて、主人公が感じる空気の中にいられて幸せでした。千早さんが小説を書かれるときに、どのような点を意識されますか?

千早 私は物語世界の色や湿度から考えることが多いですね。東京に引っ越してきた時に、思っていたよりも明るくて、とても乾燥しているのが印象深かったんです。空気が乾いていると、埃も光って見えたりして……。いつも、作品ごとに違う空気感や雰囲気を書こうとしているんですが、私自身は視力が良くないので、嗅覚や聴覚で感じるものにする傾向があると思います。

――ゲラ(校正用の印刷物)で読んだので、『マリエ』の装丁がどうなるか、とても楽しみです。装丁はどのように決めているのでしょうか?

『マリエ』(千早 茜)

千早 いつも、編集者やデザイナーと装丁会議をするんです。作品のイメージを共有して、カバーを写真にするか、絵にするか、といったことから、どの写真家さんが良いか、どのイラストレーターさんにお願いしたいかというアイデアを出し合います。私の希望が通らないことももちろんあって、デザイナーや編集者の意見に納得できれば、その方針にあわせて考えていきますね。『マリエ』の装丁を担当してくださったデザイナーの大久保明子さんはとても信頼している方です。今回も、素敵な一冊に仕上がって嬉しいです。  いつも、新しい本が出るときは、その本のイメージカラーに合わせて服や靴、ネイルなどのコーデを考えるので、それも楽しいですね。

――『マリエ』は登場人物が多いですが、みんなそれぞれに印象的で心に残りました。個性的なキャラクターを紡ぎ出すためのコツはありますか?

千早 そう言っていただけて嬉しいです。私は、登場人物のビジュアルをはじめとして、収入とか、好きな食べ物とか、生活習慣なども細かく設定を考えます。でも考えたこと、設定したことの全ては書かないですね。だいたい考えたうちの30%くらいしか使いません。その方が、奥行きがでる気がします。

――わたしの母もまりえと同じ年齢で離婚したんです。でも、何を考えていたかが自分にはわからなくて。もしまりえたちの間に子供がいたら、二人の選択は変わったでしょうか。

千早 それは当然、変わったと思います。『マリエ』を書いた時に、不倫とか、相手に非があるから、とかではなくて、したいことがあるから離婚する、という選択があってもいいと思っていたんですが、子供がいたらもっと複雑な状況になったでしょうね。自由を選択するという意味も変わってきます。子供の眼から見た離婚を視野に入れた作品も書いてみたいと、今のお話を伺って思いました。ありがとうございます。
 

意外な高校生の恋愛観・結婚観

 現代の10代の恋愛観や結婚観について、会場内で挙手をもらう形でアンケートも行った。「結婚したくない」「恋愛したくない」派が多数を占める結果に「高校生って、もっと恋愛がしたいというイメージがありましたが、意外ですね!」と千早さんも驚き。

 高校生の皆さんに理由を尋ねると
「結婚は自分に向いてない気がします。自分はマイペースなので、行動を他人に縛られたくないと思っていて……。したくない、というよりは、怖いですね」
「自分の好きなことをしたいという気持ちが大きいです。相手に遠慮しないで、行動したいと思うんですが、母にそう言ったら、結婚しなかったら淋しいじゃない、と言われて、そうなのかなという気持ちもします」
「恋愛へのあこがれはあまりないし、流行に乗ろうとするのも好きじゃないんです。乗ってしまえば、すぐに流行おくれになってしまう。それよりは時代の流行に逆らっても、自分の好きなことを楽しんで、その中で、気があう人と出会って恋愛したいです」

 一方で「結婚したい」と挙手した人の理由は
「恋愛とか友情は定義されていないですが、結婚は社会的な定義がある関係性。社会的な定義や、結婚する双方に役割を与えられた状態の中で、何が得られるのか、それを知りたいです」
「父と母の独特の間合いや雰囲気がすごく好きなんです。自分もそこに入りたいと思うような空気があって。だから、自分もそういう関係を築ける相手がいたらなと考えたりします」
「結婚は便利なところがありますよね。身近な人に何かあった時にすぐそばにいける。だから、身近に行きたいなと思うような相手に出会えたら結婚したいと思います」

 創作のなかで、恋愛に限らず、あこがれる関係性は? との質問には
「『若草物語』のローリーとジョーの関係。ローリーが幼馴染のジョーに惹かれる感じがとても好きです」
「住野よるさんの『君の膵臓をたべたい』の主人公たちは、言いたいことを言い合える関係なのがとてもいいと思います。今は、他人との距離感が大切だと言われているし、距離感がきちんとあることは大事だとも思うんですが、一方で、大切にされ過ぎて、相手に踏み込めなくなっている。だから、お互いの心に踏み込んでいける彼らの関係に憧れます」
「恋愛もそうですけど、どんな関係性でも終わりを考えると哀しくなってしまうんです。だから、柚木麻子さんの『ナイルパーチの女子会』に書かれているような、ずっと仲良しなわけではないけれど、会った時に立ち話できるような関係がいいよね、という部分にすごく惹かれました」
「西尾維新さんの『美少年探偵団』は、性別や年齢に関係なく、みんなが同等の関係でいるのがすごく好きです」
 と、様々な作品が挙げられた。
 

「千早メモ」の秘密

 読書会の後半は、自由な質疑応答の時間に。

――『しろがねの葉』で取り入れた新しい要素はなんですか?

千早 はじめて書いた時代小説という部分ですね。史実というものがあって、その事実自体は歪めずに、歴史に沿った話を書かなければならないので、まず年表をしっかり作りました。そして史実とは別の部分で自分自身の作品を書こうと考えました。その時代に生きた人を書く、というのが目指したところです。

――創作に関して、メモはしますか? 手書きとメモアプリを使い分けているとしたら、その理由はなんでしょうか。

千早 メモはたくさん取ります。私は食べることが好きなので、食べた時に感じる季節感だったり、お店の食事に対する細やかな気遣いだったり、とか。外食をしているときはお店の迷惑にならないようにメモアプリを使いますが、基本はノートに手書きですね。手書きだと、それをメモしているときの自分の感情も文字に残るんです。あ、この時はすごく興奮していたな、とか、あとで分析できるようにしておきます。
お風呂の中で小説に書きたい一文が浮かんだら、お風呂を出てすぐにメモしたり、インタビューを受けている時も、自分が逆に聞きたいことが浮かんだら、それを聞いてメモしたりもします。私はわからないことが多くて、小説を書く時にも、日常の中で感じた疑問が原点になるので、その整理のためにも、たくさんメモを取ります。
パフェが好きなんですけど、パフェの断面図を描いて、層ごとの構成要素をメモします。それは小説のためではなくて、個人的な研究なんですけど、パフェの構成には作り手の意図や演出があるので、それを読み解くのが楽しいんです。

 読書会のあとに行われたサイン会でも、参加して下さった方から、たくさんの素敵なお言葉が千早さんに直接伝えられた。高校生のみなさま、ありがとうございました!


☆読書会直後に収録された『マリエ』についての千早さんのインタビューは「本の話ポッドキャスト」でお聞きいただけます。読書会についても感想もお伺いしています!

単行本
マリエ
千早茜

定価:1,870円(税込)発売日:2023年08月25日

電子書籍
マリエ
千早茜

発売日:2023年08月25日

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