- 2023.10.24
- 特集
「学ばんとする者のための一冊」「原点回帰した」。伊与原新さんの青春科学小説『宙わたる教室』を、教育現場の先生方はどう読んだのか!?
『宙(そら)わたる教室』(伊与原 新)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
伊与原新さんの最新刊『宙わたる教室』。今年一番熱い<青春科学小説>を「高校生直木賞」に参加している、全国の中学・高校の先生方に読んでいただきました。
定時制高校の科学部を舞台に、抱える事情も年代も様々な科学部メンバーが、ユニークな実験に挑む本作を、日々教壇に立ち、あるいは図書館司書として、高校生たちと実際に向き合っている先生方は、どうリアルに感じたのでしょうか――。(後編)
向上高等学校国語科教諭 谷川拓矢先生
「なぜ空は青いのか」「なぜ雲は白いのか」「宇宙の果てはどうなっているのか」「私は死んだらどうなるのか」――。
学問の扉はいつでも、どこでも、誰にでも開かれている。
老若男女や境遇の区別はない。すべての「学ばんとする者」のための一冊。
三輪田学園中等学校・高等学校職員 川原美香子さん
その気になりさえすれば。そうだけど、それが難しい。もう自分には無理だ。
がんばらないで諦める方が楽。“でも本当の気持ちは……”そこに気づいてくれる人に出会えるか。人と人の関わり合いも対流と一緒かも? ぐるぐると流れ続けていることできっと出会うよ。
心が動いたら、流れに乗ってみようよ。
思ったことを話してみようよ。
あなたのエネルギーは誰かのエネルギーと反応していくよ。
そんなメッセージを貰いました。
宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校 学校司書 中川 貴美子先生
「明日やりたいこと、やるべきことがある」ということが人を生かし、誰しもを物語の主人公にするのだなと思える一作でした。
正直、読み始めてすぐの印象は、“世間一般に疎外感を持ち卑屈になってる生徒が、風変わりかつ理解ある大人(教師)に出会って夢を手に前向きに生きる…的よくある物語かな? と失礼なことを思ったりもしました。
しかし読み進めてみると、登場人物たちそれぞれが抱える現実の問題が夢のように解決したりはしないし、積み重ねる努力が思ったほど報われたりもしない。だけど、一度手にした「明日やりたいこと」、科学部の活動の魅力に抗えず引き寄せられていく姿にあっと言う間に魅了されました。部内のいざこざを経てみんな仲良し! とかでなく、それぞれの個性のままチームになったところも良かったです。
そして、科学部の活動を「実験」と位置づけ、自らを冷酷な人間と評する藤竹が、実は不遇な生徒たち同様、挫折や葛藤を経て、アリゾナで見た理想の形を日本でも実現したいと切望する熱を秘めた人物だったところも良かった。
この人間ドラマに織り込まれた科学の面白さも絶妙で、文系人間でも終始面白く読ませていただきました。作中の登場する実験の話も映画や本も興味が沸きました。
読了後、「よし、私もがんばろう」と思える力をくれた作品で一気に読んでしまいました。
生徒のみならず職員にも紹介して参りたいと思います。
宮崎県立宮崎西高等学校司書 小原央子先生
人は何歳であろうと、学びたい・知りたいという気持ちがある限り、探究し続けられる生き物だ――この定時制高校の教室に通う4人の高校生と担任が起こす化学反応にすっかり心を鷲掴みにされた。
ディスレクシアであるためにずっと自分の能力ひいては存在価値を否定してきた岳人をはじめ、それぞれ抱えるバックグラウンドに押しつぶされそうになりながら、知への欲求に向き合うきっかけとなった科学部での活動。
ああ、彼らの次なる一歩が気になる! 学ぶとは……原点回帰しました。
横須賀学院高等学校司書 沼島昌代先生
生き辛さや寄る辺なさを抱えている人に、そっと寄り添ってくれるような物語だと思います。
物語の舞台が高校であることや、登場人物が実際に出来そうな実験を行っているところなどは、高校生の読者にとって身近に感じやすいかもしれません。
藤竹先生の人物像がとても魅力的で、物語全体を仄かに明るく照らしているように感じました。生徒たちの未来に、少しだけ希望の見えるようなラストが心地よかったです。
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