初めましての方も、そうでない方も、こんにちは。顎木あくみと申します。
この度は、本作『人魚のあわ恋』を手にとってくださり、ありがとうございます。
初めましてでない方は、もしかしたら「おいおい、あなたならいつもこの辺でもっとおかしなことを口走りだすのに、今回はないのか?」とお思いになるかもしれません。ですが、今回は初めての文春文庫さんからの刊行ということで、ちょっとだけ格好をつけておこうかと思います。
大丈夫です、たぶんすぐにボロが出るでしょう。
突然ですが、私は和風のものが好きです。
これは確かデビュー作のあとがきにも書いた記憶があります。日本の文化が好き、和風のものが好き。しんとした静けさ、どこか漂う薄暗さや湿気、青々とした自然の香り……そんな独特の空気感が好きです。
今回、文春文庫の担当さまからお話をいただいたとき、正直、「文春文庫のラインナップに加えていただくにふさわしい作品が私に書けるのか?」と思いました。普段の私の作風は、落ち着きのある大人のふりをしたはっちゃけた若者、という感じですし、当時、小説を書く経験が浅いままデビューしたことが災いしてなんとなく自信を失いかけていたからです。
けれども、今回のお話をいただいてから企画を提出するまで――実に一年ほどの期間、自分なりに考えてみて肝心なことに気づきました。
初心にかえる。これです。
私の好きなもの、好きなことはなんだったか、どんな気持ちで小説を書き始めたのだったか。忙しくしているうちに、いつしかすっかり忘れていました。
――ああ、そうだ。和風が好きだ。不思議なものも好きだし、おどろおどろしいものも好きだ。そういう好きなものを、さらに自分好みに表現したくて小説を書き始めたのだった。
であれば、和風で、伝奇っぽくて、ちょっと不気味……だけど美しい、そんな物語を書こう。そう思い立ちました。
人魚や八百比丘尼といった題材は、私がもともと『不老不死』というモチーフが好きなのと、今回のイメージにぴったりなので採用しました。いいですよね、ほのかに血腥さがあるところとか。怪奇的であり、神秘的でもあるところとか。
また、企画を練るうちに西洋の人魚姫の儚い恋のイメージも加わって、よい雰囲気が作り出せたのではないでしょうか。
などとさらっと言いましたが、執筆もなかなか苦労がありました。
初心にかえりつつ、成長した私で物語を紡ぎたい、とかなんとか考えながら書いては直し、書いては直し。気づけば依頼をいただいてから三年近く経っての刊行に……。
他シリーズの諸々のお仕事と同時並行だったとはいえ、こんなにかかるとは。本当に一から根性を叩き直された気持ちです。ありがたいです。『NEW顎木』になれていたらいいな。『顎木・改』でもいいな。
初心は忘れず、技術には磨きをかけて、精進あるのみですね。
つらつらと書いて参りましたが、ここまでお付き合いくださった皆さまはおそらく「やっぱり文芸っぽくない散漫なあとがきだったな」と思われたことでしょう。ええ、人間の根本はそう簡単には変えられないのです……。
というわけで、このあとがきの締めに御礼を。
まずは担当さま。この度は、文春文庫という素晴らしいレーベルでの刊行の機会をいただき、ありがとうございました。私の未熟さにより、大変なお手数、ご迷惑をおかけしたと思いますが、作品と作者ともども丁寧に向き合ってくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。
また、カバーイラストを手がけてくださった、花邑まい先生。先生のお名前は以前から存じておりました! 大好きです! と大興奮のままイラストを拝見し、その美麗さに無事に爆散いたしました。本当にありがとうございます。
そして、本作を手にとってくださった読者の皆さま。皆さまのおかげで、こうして作品を発表し続けることができます。小説を書き始めた頃にはとても考えられなかったことです。そんな恩ある皆さまに、心から感謝申し上げ、少しでも楽しいひとときをお届けできていればいいな、と切に願います。
それでは、またの機会に。
「あとがき」より
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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