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「誰も見たことがない中島健人が、そこにいた」映画『おまえの罪を自白しろ』の原作者がその演技を絶賛するワケ

「誰も見たことがない中島健人が、そこにいた」映画『おまえの罪を自白しろ』の原作者がその演技を絶賛するワケ

真保 裕一,水田 伸生

『おまえの罪を自白しろ』公開記念対談 真保裕一(原作者) ×水田伸生(監督)

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 中島健人さん主演のタイムリミットサスペンス『おまえの罪を自白しろ』(原作・文春文庫)が、公開された。原作者の真保裕一さんと、監督を務めた水田伸生さんが、映画完成までの舞台裏を語りあった。

「こんな危ない作品を本当に映画化するのか」と思った

石塚 映画を担当したプロデューサーとして、石塚慶生が、聞き手を務めさせていただきます。原作者の真保裕一さんに、映画化を打診したのが2019年4月でした。そこから3年半の時を経て、ようやく公開となりました。

真保 この小説を書いたころは、政権への不信感が大きい状況でした。小説では、総理との癒着が疑われている代議士の孫が誘拐されるという事件が起きます。犯人の要求は、「罪の自白」。ここに代議士の息子である秘書が立ち向かう、というものでした。きわどい内容なので、オファーを受けたときに、「こんな危ない作品を本当に映画化するのか。どこまで本気なんだろうか」と思いました。

石塚 真保さんの原作小説は、「究極のサスペンス」であり、「家族の愛の物語」でもありました。松竹が送り出す映画として、そこをきちんと表現したい、と思ったんです。だとすれば、『舞妓Haaaan!!!』や『謝罪の王様』を撮られた水田伸生監督しかいない、と。

真保裕一さん(左)と水田伸生さん(右)

水田 今、紹介してもらった映画は、コメディばかりですが、私で良かったんですか?(笑)

石塚 いえいえ、水田監督は、ドラマ『Mother』や『Woman』で、女性と社会の物語を描いてらっしゃったからですよ。

水田 いま初めて聞きました(笑)。このオファーをもらって原作を拝読した時に、サスペンスであり、ミステリーであり、人間ドラマが描き込まれている。とてもやりがいがある、と感じたんです。なによりタイトルにドキッとした。これは真保さんが付けたんですか?

真保 最初のアイデアがうかんだときに、このタイトルと一緒に提案したら、編集者が「ぜひやりましょう!」と即決で。国会議事堂や、代議士らにも取材を重ねて、執筆をはじめました。

中島健人と堤真一が初共演で親子役に!

石塚 堤真一さんが演じる代議士・宇田清治郎、中島健人さん演じる宇田晄司。誘拐された孫の母親を演じる池田エライザさん。そして刑事役の山崎育三郎さん。寺中初美を演じた尾野真千子さん。いずれも魅力的でした。小説で、キャラクターをつくるときは、どんなことに気を付けるんですか?

真保 小説を書くときは、作品内に書かない部分も含めて、登場人物の人生を考えます。もちろん年表も作ります。小説における宇田晄司は、当初は、政治の世界にもおらず、興味もなかったんです。父親が政治の世界でどれだけ汚いことをやっていても、「自分は関係ない」と考えていた。ところが、姪っ子が誘拐されたことで、家族の命を守るために、変わっていく。総理をはじめとした国家権力と、孫を救うこと、二つの難題に板挟みになるんです。刑事の平尾も、警察と国家権力の狭間で苦しみながら戦っていく。

真保裕一さん

石塚 映画をご覧になって、キャストについては、真保さんはどう感じられましたか?

真保 関係者が初めて見る「初号試写」のときに、隣の席でご一緒した水田監督に「役者さんのみなさんの演技がすごいですね」と、絶賛したことを覚えています。自身の小説を映像化していただいた中では、一番、良かったと感じました。でも、監督は少しムッとされていたようで……。帰りの道すがら、「『俳優の演技を引き出したのは、俺だぞ』、と怒っていたのかな」と反省しました。

水田 ははは。違いますよ。あのときは、真保さんが、「少しテンポが速いですね」とおっしゃったので、自分なりに考えていたんですよ。

真保 そうだったんですね。感激したのは、主演の中島健人さんです。誰も見たことがない健人さんがいました。難しい役であったと思うんですが、こんなふうに演じられるんだな、と。

堤真一が認めた中島健人の魅力とは

水田 中島健人さんは、存在感がありましたね。彼は、テレビに映っているのとは違う部分を持っています。ちょっと「陰」があるんです。

真保 実際話すと、男っぽいし、芯がある方でした。だから今回の晄司のような役を望んでくださっていたのかもしれないですね。当初、石塚プロデューサーから「晄司役は、中島健人さんに打診をしたい」と聞いたときに、ラブコメに出ている印象があったので少し驚いたんです。でも、地上波のドラマ『砂の器』で、天才作曲家・和賀英良を演じておられたのをみて、この方なら大丈夫だ、と。その想像を、軽々と越えていく演技で、本当に感激しました。

水田 父親役の堤真一さんも、当初から、健人さんを認めていたんです。彼の武器は、リアルな身体の動きです。ライブステージで鍛えられているんです。さらに、中島さんの意識は「他者への視点」にある。だから、あの演技ができたんだと思います。

水田伸生監督

真保 現場でのケンティは、どんな様子でしたか?

水田 撮影は、とてつもなく暑い夏だったんです。屋外での待ち時間も長いですから、女性スタッフが、健人さんに日よけの傘を差しだすんです。自らは強い日差しのなかにいるのに、スタッフたちは皆笑顔で、とても幸せそうでね。

真保 スタッフの微笑みが、目に浮かびますね。

石塚 刑事の山崎育三郎さんと、健人さんが屋上で対面するシーンがあるんですが、このとき、健人さんは徹夜をして撮影に臨んでくれたんです。誘拐犯、さらには政治権力と対峙する中で、彼が追い詰められる場面は、鬼気迫る表情でした。自分の追い込み方は、すさまじい俳優だと思いました。

池田エライザの演技に、真保裕一が涙ぐんだ!?

真保 そして池田エライザさんも、娘を奪われた母親の役を見事に演じ切っておられた。あやうく泣きそうになったことを池田さんに伝えたら、「泣いてくださいよ」と言われました。隣に水田監督もいたし、絶対に泣きたくないな、と思っていたんです。

水田 遠慮せずに泣いてくださったらよかったのに。

真保 ネタバレになるから、どことは言えないですが、あるベテランの方がワンシーンで見せる輝きも素晴らしかった。あの表情は……!

水田 ネタバレにならないところでいうと、平泉成さんの場面です。ベテラン俳優たちの辞書には、「やっつけ仕事」という文字はない。スイカを勧める場面を見逃さないでいただきたい。

石塚 原作小説と映画には違う部分もあるのですが、このことについても、真保さんはご理解をいただきました。

『おまえの罪を自白しろ』(文春文庫)

真保 映画化の打ち合わせの最初に、「映画と小説は違う表現物である。我々にもやりたい部分がある」ということを言われました。それは理解できました。ただ、私がかかわった映画で、ミステリーとして成立していない映画もありましたから、ミステリーの部分だけは壊さないでほしい、ということを申し上げました。最終的には、映画は監督のものですから、お任せしました。

水田 私たちの意図は、家族が誘拐されて「被害者」となった政治家一家が、実は社会的には「加害者」でもあった側面を、描きたいと思ったんです。宇田家が「加害者」であることを明確にするためには、犯人たちのドラマが必要でした。そのために、原作の構造を壊さない範囲で、そこを創作させていただいた。その過程で真保さんに、矛盾点や弱点をたくさん指摘してもらいましたね。

 

真保 うるさい原作者のことが嫌にならなかったですか?

水田 良いシナリオがなければ、良い映画が撮れるわけがありません。このブラッシュアップは、ギリギリまでやるべきなんです。

真保 とことんお付き合いくださってありがとうございました。映画が完成したあとに、水田監督と、こんな和やかに話せるなんて。素晴らしい映画が完成して嬉しいですね。今作は、一瞬も見逃せないスピード感のあるサスペンス映画です。映画館の座席で、安心して身をゆだねて、楽しんでもらえたら、と思います。

写真=山元茂樹/文藝春秋

文春文庫
おまえの罪を自白しろ
真保裕一

定価:858円(税込)発売日:2022年05月10日

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