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必読! 警察小説10選

必読! 警察小説10選

文:西上 心太 (書評家)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

多彩なシリーズ、個性的な刑事たちから読み逃せない、百花繚乱の警察小説の傑作を徹底解説&チャートでご紹介!

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警察小説ジャンルの確立した2000年代

 警察小説の人気が一向に衰えを見せない。ちょうど10年ほど前に、警察小説の名作を紹介したムックが何冊か出版されたことがあった。こういうものが出ると、もうピークは過ぎたのではないかと思うものだが、その予想は大きく外れたようで、一ファンとしても慶賀に堪えない。

 本来の警察小説とは、名探偵のように特定の警察官が活躍するのではなく、実際の集団捜査に則した小説を指す。その嚆矢(こうし)は1945年に発表されたローレンス・トリートの『被害者のV』であるというのが定説だ。さらにその形式を完成させたのが、56年の『警官嫌い』以下、およそ半世紀にわたって書き継がれたエド・マクベインの「87分署」シリーズ(全56作)である。

 一方、ウィリアム・P・マッギヴァーンは、ギャングの上前をはねる警察官を主人公にした『殺人のためのバッジ』(51年)を発表。以後も『ビッグ・ヒート』『悪徳警官』などで評判を呼び、悪徳警官ものも警察小説の一ジャンルとして認知されるようになっていく。

 日本の警察小説の先駆けは、50年代から書き始められた島田一男の「部長刑事」や「捜査官」シリーズ、87分署から多大な影響を受けた藤原審爾の「新宿警察」シリーズだろう。特に後者は現代警察小説につながる重要な作品である。また結城昌治の『夜の終る時』(63年)は、捜査小説と悪徳警官ものを融合させる工夫が印象的な作品だった。

 警察小説の新しい書き手が目立ち始めるのは80年代から90年代だろう。逢坂剛の「百舌」シリーズ、今野敏の「安積警部補」シリーズ、大沢在昌の「新宿鮫」シリーズが始まり、93年には髙村薫『マークスの山』が登場。直木賞を受賞するなど話題を呼んだ。

 とはいえこのころは個々の作品にスポットが当たっただけで、警察小説というジャンル自体が注目を集めることには至っていなかったように思う。そのような状況が一変したのは2000年に横山秀夫の二作目『動機』が評判になったのがきっかけだったと思う。警察手帳大量紛失事件を扱った表題作が日本推理作家協会賞を受賞したこともあり、捜査に関わらない間接部門の警察官を主人公にして、署内の人間関係の軋轢から惹起される内部の事件を扱ったデビュー短編集『陰の季節』(98年)も、あらためて注目されたのだ。

 警察という特殊な「会社」における人間ドラマを、謎とからめて抽出させた横山の手法は、警察小説というジャンルの枠組みや可能性を広げ、読者の支持を得るだけでなく、他の作家にも大きな影響を与えたのだ。

 こうして2000年代を迎え、多くの作家がこの分野に集まり、百花繚乱の状態が20年にわたって続いているのだ。

 本稿では横軸を一匹狼←→組織、縦軸をシリアス←→ユーモアという指標にして、現役作家10人の作品を紹介していく。

文春文庫
動機
横山秀夫

定価:693円(税込)発売日:2002年11月08日

文春文庫
陰の季節
横山秀夫

定価:660円(税込)発売日:2001年10月10日

文春文庫
禿鷹の夜
逢坂剛

定価:979円(税込)発売日:2022年05月10日

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