広島県尾道市の山あいの町で、畑仕事をしながら一人暮らしを続ける石井哲代さん(103歳)。足の痛みで入院したり、できることが少なくなったりして気落ちする日もあるけれど、弱気の虫を退治して自分を励ましながら、明るく、機嫌よく生きることを心がけているといいます。
ここでは哲代さんがこれまでの人生経験から得た「自分の心に言い聞かせている言葉たち」をまとめた『103歳、名言だらけ。なーんちゃって』(文藝春秋)より一部を抜粋して紹介します。(全2回の1回目/続きを読む)
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103歳になったころに二度入院したんです。足の感染症やら、関節の痛みやらが出てしもうて。合わせて50日ほど病院におりました。入院中はしんどかったですけど、一人暮らしを終えようとは思わなんだねえ。
退院後、1カ月ほど姪の弥生さん(坂永弥生さん、70歳)の家でお世話になりました。お姫さんのように大事にしてもろうて極楽みたいな所です。家族がようけおって、いつもいろんな声がしてにぎやかでね。朝は小学校に行く幸ちゃん(弥生さんの孫の幸之介さん)の「行ってきまーす」って声が聞けるのもいい。
やっぱり自分の家がいい
でもやっぱり自分の家がええんですねえ。手足を思い切り伸ばせるいうんかな。いくら弥生さんと私の仲でも無造作に勝手なことはできんから。私でもちょっとはよそ行きな感じになるんでございます。なーんちゃって。
それに、家で待っておられる仏さん(仏壇)を早う掃除せんといけんと思うたりしてねえ。ほこりが重たいぞってご先祖さまが怒りよってんじゃないかなんて想像すると、気が急いてしまって。こう見えて、家の主でございますから。
いろんな人に助けてもろうて、支えてもろうての一人暮らしです。今は週に3回、デイサービスに行かせてもらっとります。ヘルパーさんに来てもらう日も増やしました。姪たちやご近所さんも様子を見に来てくれる。じゃが、してもらうんが当たり前になっちゃいけんといつも思うとります。自分も何か返せたらええなあ。何ができましょうかなあ。
自分をねぎらってやりたいです
畑にもこの1年はあんまり出んようになっとります。何でかって? サボることを覚えたんでございます。金丸先生(近所に住む親戚の金丸純二さん。元学校の先生で、今は畑仕事を手伝ってくれる「弟子」)が畑の世話をようやってくれてじゃし、甘えておるんでございます。動こうと思っても、体が言うことを聞いてくれんようになって。
それでもね、ちいと前まではこれじゃあいけんと自分を叱るもう一人の「鬼哲代」がおりました。しゃんとせえ! ってな。言い訳や横着しようと思えばいくらでもできる。甘えとったら、坂道を転げるように自分の力が落ちていく気がしてねえ。
じゃが、それから二度入院して、いよいよ横着もんになりました。庭の枯れ葉がたまっとってもそっちを見んようにしたり、夏の草むしりも熱中症になっちゃいけんって先延ばしにしたりして。ついついサボる言い訳を探してしもうとるの。「鬼哲代」もしょせん弱っちいんでございます。
近ごろは、鬼は封印
やっぱり年をとったなあと思うんです。それが本音でございます。103年も一緒に歩んできた体じゃけえな。叱るんも喝を食らわすんも、ちいとかわいそうな気がしております。近ごろは、鬼は封印して、「しんどいなあ、よう頑張っとるなあ」ってねぎらってやりたいと思うようになりました。
本当は悔しいんじゃが100点のラインをぐんと下げて、ええじゃん、ええじゃんとヘラヘラ笑って過ごすようにしとります。できん、できんと嘆くんじゃのうて、ああ、これができた、あれもできたって、一つ一つに大喜びしながら自分を盛り上げるっていうんかな。悩んでもどうにもならんことは「仕方がナイチンゲール」と笑いに変えて、機嫌よう暮らすことが、らくに老いるコツじゃと思うんです。
よし、おいしいお茶を淹れるぞ、みそ汁を作るぞって声に出して気合を入れて、一生懸命に取り組んでおります。この瞬間を大事に大事に生きていきたいです。笑って生きても泣きながら生きても、同じ一生ですね。最後にすがすがしいのはどっちでしょうか。
こればかりは簡単に諦めるわけにはいかんのです
それにしても103歳なんてお化けですね。よう生きとるなあと自分でもびっくらでございます。じゃがさすがに足が弱ってきました。家の前の坂の上り下りが、退院してからはまだ思うようにできんのです。長いこと「これを行き来できるうちは大丈夫」って自分に言い聞かせてきたん。だから、こればかりは簡単に諦めるわけにはいかんのです。
坂の下のガレージにタッタッタ(愛車のシニアカー)がおってくれます。たどり着けたら墓参りにも集会所にもターッと連れて行ってくれる。まだ本気出しとらんだけ。えっちらおっちら、塀をつたって練習せんといけませんなあ。
昨日はね、よりちゃん(近所の兼久世利子さん、70歳)に電話したんです。私が退院して家に戻った日に寄ってくれたっきり、半月も顔を見せんからどうしょうるんかと思ってね。そしたら夏風邪ひいてるって。
心配じゃから今日はよりちゃんの家に様子を見に行こうと思ってました。気になりだしたら心が急いてね。ここから1.2キロくらいかねえ。ほうてでも坂を下りてタッタッタで行くぞと算段しよったら、今朝ひょっこりよりちゃんがうちに来てくれて。思いが通じたんかね。元気そうでほんまによかった。
心だけは忙しゅう動きます
あの子はね、私より30歳ほど若いんですが妹のような存在です。昔から慕うてくれて心安いの。一生懸命に野菜を作って、地域のお世話もしてくれる働き者なん。最近、関節リウマチで手が痛んで車の運転をやめたんじゃそうです。体が弱いから心配です。
こうやってなんとか一人暮らしをさせてもろうとります。できんことが増えて悔しいねと思う気持ちと、いろんな人に支えてもらってうれしいねと思う気持ちと。体は思うように動かんけれど、心だけは自由です。ドクンドクンと活発に動くんでございます。こちらはさびついとりませんよ。何ごとも思い切り喜んだり、悲しんだりして、ああ今日も生きたぞと感謝する日々なんでございます。
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