- 2023.01.19
- 文春オンライン
畑で育った大きな大根を…「よいしょ」102歳でも一人暮らしするおばあちゃんの“年の瀬の過ごし方”
石井 哲代,中国新聞社
『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』より#1
広島県尾道市の山間の町に暮らす、102歳の石井哲代さん。近所に住む親戚や知り合いに支えられながらも、畑仕事と一人暮らしを続けている。
ここでは、そんな哲代さんの「私らしさ」を忘れない生き方をまとめた『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』から、2020年12月に綴られた日記を抜粋して紹介する。当時100歳だった、哲代さんの日常とは?(全2回の1回目/後編を読む)
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長生きせんといけませんのう
【7日】
きょうは久しぶりに学校帰りの子どもたちに会いました。きょう会った子たちも、あっという間に大きくなって、もう高校生。春から看護師と歯科衛生士の学校に進むんだそうです。高校を卒業したら地元を離れる子も多い。頼もしいよね。うれしいことです。
この子たちが小学生の頃は、毎朝うちの坂の下に立って登校するのを見送ってました。一人ずつと握手してね。「いたたっ」っていうくらい思い切り握っちゃるん。元気出して行くんぞ、きょうも頑張れよって。
学年が上がるにつれ、握り返してくる力が強くなっていくのがうれしかったですね。
たまに私が寝坊して道端に姿がないと、心配して玄関をピンポーンしてくれるの。慌てて出ると「あー、よかった。おった」って。これじゃあどっちが見守りしていたのか分かりません。
でもね、子どもが減って、とうとう朝の見送りはこの3月でおしまいになってしまいました。寂しいもんですね。
【8日】
今晩も日記を書きました。一冊で3年分が残せる「3年日記」をずっとつけよります。会った人や畑のことを思い出しながら夕食後に書くんです。今の日記帳は今年で書き終えるから新しいのを用意しました。次の日記が終わる頃には103歳ですか。どうなりましょうに。紙を粗末にできんから長生きせんといけませんのう。
「いとおしかったです」先生時代の思い出
【9日】
きょうは、ぼんやり昔のことを思い出しました。20歳で尋常高等小学校の先生になりました。1940年、太平洋戦争が始まる前の年です。無我夢中でしたなあ。駆け出しの頃のこと、よう覚えとります。
昼休み、校舎の脇の日だまりに長椅子を出して、子どもたちを座らせるの。順番に爪を切って、髪をとかして、鼻水を拭いてやるのが日課でした。親はその日をどう生きるかで精いっぱいの時代じゃったから、子どもの身の回りのことを気にかける余裕なんかなかったけえねえ。
きょうだいが多いし、親は必死で働いとるし。当時の子どもは親に甘えることができんかった。だからね、一人一人に全力で愛情を注ぎましたよ。手を握り、頭をなでてやるうちに向こうも安心して体を寄せてくるの。いとおしかったです。
56歳で退職したんですが、きょうは教え子が奥さんと一緒に訪ねてきてくれました。教え子って言うても、もう80代。でもここに来たら小学生の男の子に戻るんですね。
家庭科でパンツを縫ったことがあったんですが、その子はええ具合に仕上げられんかった。でも根気強く何とか形にしてね。苦労したことが子どもの糧になります。私も「できたできた」って一緒に喜んで。頑張ったことを褒めたもんです。その子もよく覚えとってね。思い出話で盛り上がりました。
苦労のない人生はつまらんです
【13日】
大根が畑にたくさんできています。昔のように漬物なんてしやせんし、食べる分だけ抜くんです。よいしょ。本当に大きな大根でね。おばあさんじゃあ抜けんの。うちに来ちゃった人に「抜いて持って帰って」って言うんじゃけど、上手に抜けんから先っぽが折れてしもうて。畑に残った先っぽをおばあさんはいただきます。
【16日】
京都の本願寺さんから記者さん(浄土真宗本願寺派の機関紙「本願寺新報」の記者)が取材に来られました。100歳のおばあさんが毎晩大きな声でお経をあげておるからでしょうかな。ようけ写真を撮ってもらって。飾ったところでぼろが出るだけ。ありのままを見てもらいました。
【18日】
正月には早いけど干していた黒豆を炊きました。黒豆は「苦労豆」。苦労しますようにと願って黒豆をいただくんです。苦労することで見えたり感じたりすることもあるでしょう。どう乗り越えようかって考えますもんね。
苦労のない人生はつまらんです。なんちゃって。口ばかり達者でございます。
まだ書けるじゃんって寂しく思うの
【21日】
きょうの新聞は世羅高校の駅伝の活躍があちこち出ていて隅々まで読みました。きのうはテレビで応援しましたよ。
世羅には直ちゃん(横山直江さん。哲代おばあちゃんの夫、良英さんの兄の三女)とよくドライブに行きます。選手が一生懸命走っている姿を見掛けたこともあるんです。ああ、うれしい。
【22日】
年賀状を30枚買いました。いただく年賀状に「もう年取って書けんから来年から出すのをやめます」って書いてあるのが増えてね。そんなのを読むたび、でもこうやって書きようてじゃない、まだ書けるじゃんって寂しく思うの。
私は「元気出しましょうね」って書きます。
「姪たちに心配かけんようにしたい」書き溜めたノートは5冊に…102歳で一人暮らしする女性の“終活”との向き合い方 へ続く
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