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「どうして寂しくても一人暮らしを 続けているのですか?」102歳、哲代おばあちゃんの弱気の虫の退治法

「どうして寂しくても一人暮らしを 続けているのですか?」102歳、哲代おばあちゃんの弱気の虫の退治法

文=ライフスタイル出版部

出典 : #CREA
ジャンル : #ノンフィクション

 広島県尾道市の一軒家で暮らす、102歳の石井哲代さん。小学校教員として働き、子どもがいなかった哲代さんは、20年前に夫が亡くなって以来、ずっと一人暮らしです。

 その暮らしぶりを紹介し、発売以来、続々と版を重ねている『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』の出版記念トークイベントが1月21日、広島T-SITEで開催されました。哲代おばあちゃんの軽快なおしゃべりをご堪能ください。聞き手は、3年間に渡り哲代おばあちゃんの取材を続けている中国新聞社の記者、木ノ元陽子さんと鈴中直美さんです。


たった102歳でございます

哲代 みなさん、こんにちは。私が石井でございます。たった、100……なんぼになりますけえな……102歳だそうでございます。でもこうして元気にみなさんにお会いできて、とても嬉しく思います。

木ノ元 みなさま初めまして、中国新聞の木ノ元と申します。

鈴中 中国新聞の鈴中と申します。まずは、哲代さんの日常を追ったVTRがあるので、それを見ながらお話ししていきたいと思います。

自宅の前の坂を杖をついてバックバックで下りる哲代おばあちゃん

哲代 腰を屈めて、杖をついてバックバックで下りるんです。これが日常生活です。この坂を下りないと、どこにも出られません。いつまでもスムーズに上り下りできるようにしとりたいと、願っております。

シニアカー「タッタッタ」で走る哲代おばあちゃん

哲代 これに乗ったら「タッタッタ」ってどこにでも行けるので、そう呼んでいます。

鈴中 「左よし、右よし」ってあまり確認していないですよね(笑)。

哲代 ここは我が道でございますので、行く人は避けて通ってください。みなさんが用心してくれているんです(笑)。

木ノ元 結構スピード出しますよね。気をつけて乗ってくださいね。

哲代 そうですね。みなさんのほうに「気をつけて」とお願いしているようじゃいけませんなあ(笑)。

しかめっ面をしている哲代さんを見たことがない

昭和48年から始めた「仲良しクラブ」の仲間と集まって大正琴を弾いている哲代おばあちゃん

哲代 クラブを50年前に始めたときは、20人くらいおりましたかね。大正琴は当時、300円か400円だったんですけど、これを背負うてあっちこっち行って練習して。今はコロナで発表会はできないんですが、毎週月曜に集まって練習したり、ぜんざいを食べたり(笑)。

木ノ元 ぜんざいのお餅は何個食べるんですか?

哲代 そんなに食べませんよ。2つくらいしか。本気出したら、5つ、6つはいけます。

鈴中 すごいですね。100歳すぎて、5つ、6つって。

哲代 とにかく、みんなで集まることを喜んでいるんです。

「笑う」と習字で書く哲代おばあちゃん

鈴中 これは101歳のときに書き初めをしていただいた映像で、「笑う」という字を書かれていますけど、私たちは、機嫌が悪かったり、しかめっ面をしている哲代さんを見たことがないんです。いつも笑顔でほがらかで。

哲代 作ってでも笑顔にしとるんです。

木ノ元 えっ、作ってるんですか?

哲代 昔から、うちの母に「どんなに情けないときでも、とにかく笑顔になって心を笑わせれば、情けないことが飛んでいくけえの」って言われとったもんですから、ずっとやりよります。

鈴中 「笑う門には福来る」で、笑っていたら気持ちが明るくなる?

哲代 そうです。本当にことわざ通りでね。落ち込んでも一生は一生、笑うていても一生は一生。そんならね、笑うて自分の体や気持ちを良いほうに持っていって、一生を過ごしたほうが、自分も周りの人も良いですもんね。

鈴中 ニコニコは伝染しますからね。でも歳を重ねて老いていくのは大変なこともあるでしょう?

哲代 大変なこともあるけれどもね、裏返したらまた良いこともある。表裏一体。何事も表と裏があるんだからね。「裏ばっかりじゃなくて表を常に考えるように」と教わって大きくなりました。

オーバーアクションも得意

木ノ元 老いるというのは、悪いこともあれば良いこともあると。歳を取って良いなあと思ったのはどんなことですか?

哲代 ほかの人から見たら「腰が曲がってしんどいじゃろうなー」と思うだろうけれど、腰が曲がっとるからこそ、人より余計に休憩ができたりするんですよ(笑)。本当にちょっと心を入れ替えるだけでねえ、苦が楽になるんです。手の甲はしわくちゃでも手のひらはつるつるでしょ。それと同じように、「情けないのう」と思いよっても、よく考えてみたら「ええことじゃった」ってこともありますからね。できるだけ、ええほうに考えりゃええと思います。自分の頭じゃからな。

木ノ元 哲代さんは、いつも自分を励ましながら生きている人だなと、私たちは取材をしながら思っているんです。弱気の虫が出てきたときは、「悩みが出てこないくらい体を動かす」とおっしゃっていましたよね。

哲代 はいはい。体を動かして、よく食べて、よく寝て、よくしゃべってね。自分の体は自分でしかコントロールできんですもんね。

鈴中 晩御飯も、しんどくて昔みたいに何品も作れなくなっても、朝起きておいしいお味噌が作れたら、それだけでOKって自分を褒めて。

哲代 そうです。「ようできましたよ、いりこの出汁がよう出ております、おいしいですよ」って言っていただけばいいんです。自分で自分を褒めるんだから、たやすいですよ。

毎朝作る、いりこの出汁のお味噌汁

鈴中 できないことばかりに目を向けるんじゃなくて、哲代さんみたいに「あれができた」「これができた」と、できることを探していけばいいですかね。

哲代 そうですね。できたことを、自分で褒めてやる。小さいときは「自分で自分を褒めるのはバカだ」と言われよったんですが、今は「自分で自分を褒めることは良いことだ」と思いますね。他の人に褒めてもらうのは、なかなかできることじゃないですから。

木ノ元 哲代さんはいつも言葉に出しますよね。「ああおいしい」とか「これからおやつをいただきます」とか。その、気持ちが上がるように自分で自分に言って聞かせる独り言が、大きな声なんですよね(笑)。

哲代 ちょびっとのお菓子でも大声で言います(笑)。

鈴中 オーバーアクションも得意ですよね。

喜ぶときはオーバーリアクションで

どうして一人暮らしを続けているんですか?

哲代 自分を楽しませて、自分を喜ばす生き方がいいですよね。せっかくの一生ですから。

鈴中 とはいえ、一人暮らしで、寂しいなと思うこともありますよね。

哲代 そりゃありますよ。今、一人暮らしされている方、多いですもんね。毎晩寝るとき仏さんや亡くなった主人に「おやすみなさい」と言うんですけどね、この頃はそれを言いとうないときがあるんです。「どうせ一人じゃ……」と寂しく思ってね。でもやっぱり、そこで「おやすみなさい!」って大きな声を出すんです。そうするとちゃんと寝られるけえね。自分でなんとか乗り越える方法を考えていかんと。

鈴中 弱気の虫は早め早めに自分で退治していかないと。

哲代 自分でなんとかせんとね。

木ノ元 寂しい気持ちがあるのに、どうして一人暮らしを続けているんですか? 姪御さんのところで暮らすとか……?

哲代 でもその気にはなかなかならないね。姪は「迷惑じゃないよ」と言うてはくれるけれども、気兼ねがあるからね。どうしても体の都合がつかんときには、お世話になりますけど、まだ自分でなんとかできるうちは、一人暮らしを続けたいです。

鈴中 寒いし、心配ですよ。哲代さんのお宅は土間があって、隙間風が吹いているのに、暖房は小さな灯油ストーブだけですし。

哲代 今朝も灯油を注いできました。重たいんですよ。でも満タンにせんでもいいから。自分で持てる分だけ灯油を注げばいいんです。

自分で持てる分だけの灯油をストーブに注ぐ

鈴中 こっちが「やってあげる」と言うと、「やらんでええ」って。「これも自分のトレーニングです」ってご自分でされるんですよね。やっぱり、自分で思うようにやっていきたいっていうのがあるんですね。

木ノ元 何時に起きても気兼ねせんでいいし。自分で全部決められるというのは、一人暮らしの良さですよね。

哲代 そうですね。

木ノ元 でも施設に入ったら、温かいご飯も用意してもらえるし、全部やってもらえますよ。

哲代 まだ施設に入りたいとは思いません。自分でご飯も炊けるし。昔みたいに薪で炊かんでも、この頃はスイッチ入れりゃあええんじゃけえ。まだ自分の家がええかなあと思いよるんでございます。

ご飯は1日1合をぺろり

木ノ元 できなくなってきたことは、うまいこと周りの人の力を借りながら、一生懸命自分の人生を作っていくというスタンスは、一貫して変わりませんね。

哲代 はい。自分でできることは自分でやってね。

木ノ元 人生100年時代と言われていますけど「そんなに長生きしたくない」という高齢者の方もいらっしゃるみたいで、「生きていくことはしんどいことだ」と思う人も多いんです。哲代さんはどう思います?

哲代 せっかくの人生ですもの、私はギリギリまで生きさせてもらいたいですね。どんな最後になるかは知りませんけど。1920年からですから、4月で103歳。わー、ありがたい人生です。「でした」と言いたいんじゃが、まだ「です」。「ing(アイ・エヌ・ジー)」で生きてます。ほんまにありがたい人生です。

鈴中 『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』の本ができて、多くの方に手に取ってもらって、嬉しいですね。

哲代 一人になっても、こうしてみなさんの支えの中で生きさせていただいているということが、しみじみとありがたいです。

木ノ元 本を通じて、多くの人とまた繋がることができて……。

哲代 幸せです。ありがとうございます。

石井哲代(いしい・てつよ)

1920年、広島県の府中市上下町生まれ。20歳で小学校教員になり、56歳で退職してからは畑仕事に勤しむ。近所の人からは、いまも「先生」と呼ばれている。26歳で同じく教員の良英さんと結婚。子どもはおらず、2003年に夫が亡くなってからは親戚や近所の人に支えられながら一人暮らしをしている。100歳を超えても元気な姿が「中国新聞」やテレビなどで紹介されて話題に。

木ノ元陽子

中国新聞編集委員室長

鈴中直美

中国新聞報道センターくらし担当デスク

単行本
102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方
石井哲代 中国新聞社

定価:1,540円(税込)発売日:2023年01月10日

電子書籍
102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方
石井哲代 中国新聞社

発売日:2023年01月10日

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