- 2024.12.31
- 読書オンライン
【祝・受賞】え、スティーヴン・キングが大賞受賞? 未知なる文学賞『楽天Kobo電子書籍Award2024』授賞式に行ってみた!
「本の話」編集部
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
3月某日、その連絡は唐突にSlackに流れてきた。
「楽天の電子書籍の賞で『異能機関』スティーヴン・キングが大賞を受賞しました」
ええ、ぼくはその本の担当者ですが……はて、楽天が? 電子書籍の賞を? キングに?
楽天が文学賞をやってるって知ってましたか?
泣く子も黙る「ホラーの帝王」であり、今年2024年に作家生活50周年を迎えた、世界で最も成功している作家キング。もちろんアメリカでは数限りない賞を受けてはいるが、これほどの大御所に、今、日本で、電子書籍の賞というのはいささか意外な驚きだった。というか、楽天が電子書籍の賞をやっていること自体、ご存知ない方もいるのではないだろうか(不覚にも担当も知りませんでした)。
だがそれも無理はない。じつはこの楽天Kobo電子書籍Awardは昨年からはじまったばかりの、新しく、野心的な賞なのだ。
楽天Koboジャパン事業部で、この賞の立ち上げから携わってきた森下知恵さんが教えてくれた。
「電子書籍の売り上げはこの数年大きく伸びていますが、AmazonのKindleが最大手。それに対して、楽天のKoboは認知度がまだまだだと考えています。そこで存在感を示していくにはどうするか。
電子の売り上げの約9割がコミック作品と言われますが、Koboはコミック専門ではない“総合書店”です。その強みを生かして、本が多すぎて何を読んだらいいのかわからないユーザーにオールジャンルでお勧めしていきたい。そして電子といえばまずKindleを考える著者や編集者の皆さんにもKoboのイメージを持ってもらいたい。
ひいては、電子書籍から出版界全体をエンパワーしていきたい……そんな思いから、昨年この賞を立ち上げたわけです」(森下さん)
こうしたコンセプトの賞であるため、Kobo賞の受賞部門は多岐にわたっている。なにせコミックが7部門、書籍・写真集が10部門。さらに特別賞まであり、とにかくなるべく多くの作品を顕彰しようという勢いが凄い。キングの『異能機関』はそのなかで「小説(海外編)」部門の大賞を受賞したわけだ。
さっそく本作の訳者、白石朗さんに受賞を伝えた。
「キングの作家生活50周年という途方もない節目の年にこういうことがあるなんて、素直にうれしいですね! 感無量です。
キングといえば早くから電子書籍に注目していた人で、作家生活の折り返しの頃だった2000年に、『ライディング・ザ・ブレット』という中篇を電子書籍限定で発売したことがあります。24時間で40万ダウンロードされて、発売元のサーバが落ちたとか(笑)。
世界クラスの人気作家でそういうことをしたのはキングが初めてで、黎明期だった電子書籍を大きく推し進めたんじゃないでしょうか。その彼が今、電子書籍の賞を受けるというのもまた意義深く思えますね」(白石さん)
それ、50周年記念刊行で読めるようになります(宣伝)
なるほど、キングと聞いた当初は意外にも思ったが、実はきわめて的を射た授賞だった、というわけだ。ちなみに、この『ライディング・ザ・ブレット』は長らく入手困難になっていたが、2024年9月に50周年記念刊行の一環として文春文庫から日本オリジナルで発売予定の中篇集『コロラド・キッド 他2篇(仮)』に収録される。ファン必携の一冊といえよう!
……と、さりげなく宣伝しつつ、白石さんには授賞式でのスピーチをお願いし、快諾いただいた。翻訳書籍をやっていると、意外と「式」に出る機会がない担当も、いそいそと出席の連絡をする。
さて5月某日、ちょっぴり緊張しながら白石さんと会場へ。白石さんはこういう受賞のご経験ありますか?
「そうですね、2013年のキングの『11/22/63』で第5回翻訳ミステリー大賞を受賞したのはしみじみ嬉しかったですねえ。翻訳者の投票で選ばれる賞なので、プロの皆さんに支持される作品に携われたことは光栄でした。
『11/22/63』は作品としても『このミステリーがすごい!』と『週刊文春ミステリーベスト10』でその年の1位に選ばれたんです。キングは両方ともベスト10にはたびたび入っていましたけど、1位はこのときが初めてで。思い出深い作品ですよね」
そのとき以来の授賞式。会場は円卓着席スタイルで、結婚式場のごとき華やかさだ。森下さんによれば100名以上の出席があったという。
先述のとおり17部門もの表彰があるので、関係者を全員招待していると大変なことになってしまう。各社人数制限のあるなかで出席させてもらい、ちょっと嬉しい担当である。
錚々たる作家の方々が!
周囲を見ると、同じテーブルに『きみのお金は誰のため』〈人生に役立つ本(国内編)部門大賞〉の田内学さん、少し向こうには『イクサガミ』〈時代小説部門大賞〉の直木賞作家・今村翔吾さんや、『近畿地方のある場所について』〈新人(小説)部門大賞〉の背筋さんなどなど、書籍、コミック問わず多種多様なベストセラー作家が何人も出席している。なかなかありそうでない文学賞である。
プレゼンターとして楽天執行役員でKobo賞の責任者・高橋宙生さんと、タレントの山崎怜奈さんが登場すると、またひときわ会場の雰囲気が明るくなった。山崎さんの進行が非常に丁寧で、あ、本好きな人だ、ということがすぐにわかる。
特に、同じ番組でラジオパーソナリティとして共演している今村翔吾さんとの掛け合いや、『推す力』〈新書部門大賞〉での、アイドル評論家の第一人者・中森明夫さんから捧げられた熱いスピーチなどは、山崎さんならではのシーン。これは運営側の人選のヒットではないか。
「まさにそうですね。人選は非常に難しくて、とにかく本が好きな方であることと、若い層に訴求できる方ということで山崎さんに依頼しました。結果、想像以上にしっかり準備をしてくださって。もっと早くから依頼してくれれば受賞作をすべて読んでもっと深い話ができたのに、と悔しがってくれたほどでした。今村さんや中森さんとの関係性も、まったく偶然だったのですが、とてもいい彩りになったと思います」(森下さん)
感無量の受賞!
そして、『暴食のベルセルク』や『ダンジョンの中のひと』、『悪役令嬢は死神パパに復讐がしたいのに!』といったコミックの受賞タイトル(どのタイトルがどの部門かはぜひ賞の公式サイトでお確かめあれ)に混じって、ひときわ異能……じゃなくて異彩を放つ、いや、逆に一周回って違和感がない気もしてくる『異能機関』の受賞である。
山崎さんに翻訳の要諦を尋ねられ、「偉大な作家の肩に乗せてもらって世界を見るような快感があります。ちょっとだけ作者のフリができるのが嬉しかったりしますね」とにこやかに答える白石さん。おめでとうございます!
それにしても、今回はどうして『異能機関』が選ばれたのだろう? 式の後で、森下さんに少しだけ舞台裏を教えてもらった。
「選考過程をご説明すると、まず、各出版社から部門ごとに自社作品を推薦してもらいます。そして、Koboでのダウンロード数と、独自のロジックを合わせて、楽天社内の選考委員会を経て各部門10作ずつの入賞作品を大枠で決めました。
単純なトータルダウンロード数だと販売期間で有利不利が生じてしまうので、初月、3ヶ月、半年といった時点ごとの数字でインパクトを加点するなど、細かい調整も行なっています。
入賞作品に対して、改めて各出版社と取次に投票してもらいます。その数字をもとに選考委員会の票も加え、最後はその年にふさわしいかどうかといった意味づけも加味して、委員長の高橋が総合的に大賞を確定しました。
キングの『異能機関』については、得票率がトップでしたし、デビュー50周年記念刊行作品とあって、かなり早く決定しました。忖度なしです(笑)」
非常に気を遣った選考過程であることがよくわかった。ちなみに複数回受賞もありにしている(実際、写真集部門の似鳥沙也加さんは2連覇である)そうなので、キングも連覇に向けて、ぜひ読者諸兄姉のご助力を願いたいところである。
今もアップデートしつづける帝王の魅力
白石さんにも再び「電子書籍とキング」について聞いた。
「AmazonがKindleを発売したのが2007年ですか。2009年の新モデルに合わせて、キングがKindle配信限定で『UR』という中篇を発表しました。ぼくもこれが読みたくて当時Kindleを導入しましたね。Koboには申し訳ないんだけれど(笑)。
この中篇は、この世に存在しない文豪の作品を“読めてしまう”電子書籍リーダーを手に入れた主人公が大変な目にあうという作品でした。ワープロ、パソコン、携帯電話、スマホと新しいテクノロジーが世に出るたびに、それを作品に取り入れていくキングの貪欲な姿勢が変わっていないことに感心しましたね。
先日アメリカで刊行された最新短篇集の『You Like It Darker』には、電子書籍の購読サイトのScribdや、キング公式サイトが初出の短篇『ローリー』も含まれていました。これからもそういう試みを続けていくんだろうと思います」
ちなみに『UR』は現在は文春文庫『マイル81』に収録されているので、Koboでも紙の文庫版でも読むことができる。そして、『ローリー』は無料(!)電子書籍『デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本』に収録されており、こちらもKoboでひと足先に読めるのである。
……と、さりげなく宣伝しつつ、最後に改めて受賞作への思いを。
「若い読者の方には、今回の受賞作になった『異能機関』をまず読んでみていただければと思います。超能力をそなえた少年少女が監禁されている謎の施設。その施設を動かしている圧倒的な権力とけなげに戦う主人公たちに、あなたはいつしか声援を送るようになっていることでしょう。この作品でキングという著者名が〈おもしろ本の目印〉だとわかったら、あとはキングが50年間に書いて世界じゅうの読者をとりこにしてきた作品群があなたを待っています!」(白石さん)
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