- 2024.10.17
- 読書オンライン
《性犯罪と告発者潰し》マネジャーもエージェントもグル… 「ミーティング」の場で性被害に遭った女優のキャリアはその後どうなったか
「文春文庫」編集部
『キャッチ・アンド・キル #MeTooを潰せ』より#1
2024年春、ニューヨーク州に激震が走った。ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン受刑者(72)の有罪判決が最高裁で破棄されたのだ。被害者側の証人尋問の手続きに問題があったという理由だが、ことほどさように、世界のどこであっても性犯罪を問う法的ハードルは高い。
ワインスタインの罪を初めて暴きピュリッツアー賞を受賞、#MeTooが広まるきっかけを作った伝説的ノンフィクション『キャッチ・アンド・キル #MeTooを潰せ』(ローナン・ファロー著)から、絶対的強者の罪、それも性犯罪を問おうとする時に何が起こるか、エピソードを再構成して紹介する。
「業界の神様」は強姦魔だった
ハリウッドに巻き起こった#MeTooの始まりは、女優のローズ・マッゴーワンが発したツイートだった。
「業界では公然の秘密なのに、ハリウッドもマスコミも強姦魔をちやほやし、私を攻撃する。この世界は真っ正直になるべきよ」
マッゴーワンがほのめかした「強姦魔」こそ、ハーヴェイ・ワインスタインだった。ワインスタインは身長180センチを超える巨漢。顔は歪み、小さな目をいつもすがめている。しかし、身体以上に大きいのが、業界での立場だった。
彼の制作した映画はアカデミー賞各部門に300回以上ノミネートされ、授賞式のスピーチでは業界の誰よりも名指しで感謝されてきた。これは神様への感謝よりも多い回数だ。つまり、ワインスタインは業界では神様も同然だったのだ。
このツイートを追ったのが、当時アメリカ3大ネットワークの一つNBCの報道記者だったローナン・ファローだ。ファローは15歳で大学を卒業。21歳でイェール大学ロースクールを卒業し、弁護士資格を取得。オックスフォード大学で博士課程を終え、アフガニスタン・パキスタンで国務省スタッフとして勤務し、のちにジャーナリストになった俊英で、アメリカでは本書が刊行される前から、すでにセレブの一人だった。
米ピープル誌「最もセクシーな男性たち」にも選ばれている彼の母は、女優のミア・ファロー。父はウディ・アレン。父アレンには、ローナンの姉ディランに性的虐待を行ったという疑惑があった。
人生がいきなり逆さになった瞬間
マッゴーワンは自宅の居間でカメラが回る中、マネジャーがワインスタインとのミーティングをお膳立てしたこと、ミーティングの場所がホテルのレストランからスイートルームへと急に変更されたこと、そのスイートルームで暴行にあったことをファローに語った。
当時のマッゴーワンにとってワインスタインは仕事上のボスだった。最初の1時間は普通に仕事の話をしたが、そのとき彼女の演技を褒めたという。
「部屋を出て行こうとしたら、それがただの仕事じゃなかったことがわかった。すべてがあっという間だったし、すべてがスローモーションみたいだった。被害を受けた人はみんな同じだと思う。人生がいきなり逆さになったみたいな感じ。なんていうか……ショックで金縛りになるの。頭はそこで起きていることに必死に追いつこうとする。そして突然、自分は真っ裸にされてる」
「セックスシーンを演じたあなたのいう事は誰も信じない」
マッゴーワンは訴えることを考えた。しかし、刑事事件を扱う弁護士に相談すると、こう告げられた。
「セックスシーンを演じたことがあるあなたの言うことを、絶対に誰も信じるはずがない」
マッゴーワンは刑事告訴を諦め、金銭で和解することにし、ワインスタインを訴える権利を放棄した。
「辛かった。その頃の私にとって、10万ドルは大金だった。まだ子供だったから」
そのカネは、ワインスタインが「罪を認めた証拠」だと思うことにした。
マッゴーワンは言う。アシスタントやマネジャーや業界の大物エージェントたちは、みんなグルだった。ワインスタインとのミーティングに入っていく時も、出ていく時も、
「私の方を見ようとしなかった。みんな下を向いてた。周囲の男は全員ね」。
この事件のあと、マッゴーワンはなぜか自分が「要注意人物のリストに載せられた」ことを確信した。女優として乗りに乗っていたのに、映画の仕事のオファーはほとんどなくなったのだ。
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