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《性犯罪と告発者潰し》被害女性の決死の挑戦で動かぬ証拠が手に入ったが、その後、世にも奇妙なことが起きた

《性犯罪と告発者潰し》被害女性の決死の挑戦で動かぬ証拠が手に入ったが、その後、世にも奇妙なことが起きた

「文春文庫」編集部

『キャッチ・アンド・キル #MeTooを潰せ』より#2

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #ノンフィクション

《性犯罪と告発者潰し》マネジャーもエージェントもグル… 「ミーティング」の場で性被害に遭った女優のキャリアはその後どうなったか〉から続く

 映画界の大立者、ハーヴェイ・ワインスタインによる性被害について調査を進めるジャーナリストのローナン・ファロー。しかし、被害に遭った女性たちはみな震え上がり、口を開きたがらなかった。その中に、勇気を奮い、爆弾証言を始めた一人の女性がいた。

「その胸は本物か?」

 2015年3月、ミス・イタリアコンテストのファイナリストにも残ったフィリピン系イタリア人モデル、アンブラ・バッティラナ・グティエレスは、当初からワインスタインに屈しない姿勢を見せていた女性の一人だ。

2020年2月24日、ワインスタインの有罪判決を受け、メディアの取材に応じるグティエレス 写真:ロイター/アフロ

 とあるパーティでグティエレスに目を付けたワインスタインは、彼女に仕事の話をしたいと持ち掛けた。

 履歴書と宣材写真を持ってワインスタインの事務所を訪ねたグティエレスがソファに座り、宣材写真をめくっていると、隣りに座るワインスタインの目が彼女の胸に釘付けになる。

「その胸は本物か?」と聞くやいなや、ワインスタインは覆いかぶさってきて胸をまさぐり、いやがる彼女のスカートの中に手を入れようとした。必死に抵抗するとやっと引き下がったが、ワインスタインは彼女に、その夜のミュージカル『ファインディング・ネバーランド』を見に来るよう命じた。

 当時22歳だったグティエレスは事務所を退出すると、震えて泣きながらも、自身のエージェントを連れて警察署に出向いた。

 捜査に前向きになった性犯罪特別捜査班の捜査官は一計を案じ、グティエレスが盗聴器を身につけてワインスタインと会い、証拠となる証言を採取したらどうか、と提案した。

 これを聞いたグティエレスは、恐怖のあまり眠れなくなった。しかし、彼女は決断する。ワインスタインを止めたいと思ったのだ。二度と同じことをしないように。

「彼に逆らったら、将来が閉ざされると言われたわ。それでも、この男がやったことは間違っているし、ふたたび同じことをさせないために、自分のキャリアを危険にさらしてもいいと思った」

捜査員のいない、ホテル最上階の部屋の前でもみ合いに

 翌日、グティエレスはホテルのお洒落なバーでワインスタインと待ち合わせた。バーの中では覆面捜査員のチームが二人を見張っていた。ワインスタインはグティエレスを褒めちぎり、もし友達になってくれるなら女優の仕事を見つけてやる、あの女優もこの女優も俺が引き上げてやったのだ、と言った。

 トイレに行くと告げ、すぐに戻ってきたワインスタインは突然、シャワーを浴びたくなったので、ホテル最上階のスイートルームに今すぐ一緒に来い、と彼女を急かした。抵抗したが、この巨体の男は引き下がらない。

 捜査員のアドバイス通り、最初は上着をわざと階下に忘れて取りに戻った。2度目はゴシップ誌のカメラマンのふりをした捜査員が質問をしはじめたので、怒ったワインスタインはホテルの従業員にクレームをつけた。

 しかし、ついにグティエレスを連れてエレベーターで上階に上ったワインスタインは、彼女を部屋に連れ込もうとする。その時、覆面捜査員は周りにいなかった。

 グティエレスは事前に捜査員から、携帯をバッグに入れて録音し続けるように指示されていた。しかし、最悪なことに彼女の携帯は今にも電池切れになりそうだった。

 その時だ。部屋の前でもみ合ううちに、ワインスタインは前日にグティエレスの身体に触ったことを認めたのだ。その時のワインスタインの劇的な告白のすべてが、録音されていた。

 グティエレスは離してくれと懇願し続け、やっと諦めたワインスタインは階下に戻ってきた。覆面を解いた捜査員が近寄り、映画界のレジェンドに話を聞きたいと告げた。

 もし起訴されていれば、第3級性的虐待の罪に問われていたはずだ。

一斉に被害者叩きを始めたメディア

提供:アフロ

 だが、この事件が公になった後、世にも奇妙なことが起きた。

 タブロイド紙はワインスタインではなく、グティエレスのスキャンダルを書き立てたのだ。グティエレスがミス・イタリアコンテストに出場した2010年、当時イタリア首相だったシルビオ・ベルルスコーニの開いた「乱交」パーティに参加していたというのだ。

 このパーティで売春婦を買ったとしてベルルスコーニは追及されていたが、タブロイド紙の記事では、グティエレス自身も売春婦で、イタリアで金持ちのパパに囲われていると報じられた。

 デイリー・メイル紙は、グティエレスはワインスタインを訴えた翌日、ワインスタインの制作したブロードウェイ・ミュージカルの『ファインディング・ネバーランド』を観劇していたと報じた。ゴシップコラムのページ・シックスは、グティエレスが映画への出演を要求したと書いた。

 グティエレスは売春婦などではなく、ベルルスコーニのパーティにも仕事として出席しただけで、いかがわしく感じてすぐに退出し、映画出演もまったく要求していないと訴えた。

 だが、彼女の言葉はあと付けのように小さく取り上げられる以外は、ほぼ表に出なかった。

 来る日も来る日も下着姿かビキニ姿のグティエレスの写真が、タブロイド紙を飾った。それらの写真は、まるで彼女の方が加害者で、女の武器を使ってワインスタインを罠にかけたかのように見せていた。

 しかも驚いたことに、今度はマンハッタン地方検事局が、タブロイド紙と同じ点を問題にし始めた。ベルルスコーニのことや個人的な性的履歴について、グティエレスを尋常でない厳しさで問い詰めた。

 グティエレスと一緒にワインスタインを追い詰めた捜査員たちは、ローナンに語る。

「ワインスタイン側の弁護士かと思うくらいに、検事が彼女をこてんぱんにやり込めていた」

 2015年4月10日。地方検事局が発表したのは、ワインスタインの「不起訴」だった。

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