カンマ、あるいは読点
――『時間の虹』あとがきにかえて――
「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズの著者、吉永南央です。
物語の主人公は、北関東のとある市の、丘陵がある紅雲町で小蔵屋という和食器とコーヒー豆の店を営む老女 杉浦草。彼女と同じく夜も明けていない早朝に起きだして、これを書いています。
幸運にもシリーズ最初の短編となったデビュー作「紅雲町のお草」が2004年、あれから20年の歳月が過ぎ、12冊目となる最新刊『時間の虹』をもちましてひと区切りとなります。
読者の方々、書店、出版社等々、多くの皆様に支えられ育てていただいた本シリーズです。あらためて心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。
1冊目の文庫『萩を揺らす雨』の時間内に、以降の作品は含まれていたわけですけれども、今作『時間の虹』では初めてその時間の枠を飛び越えることに。「小蔵屋、まさかの閉店。」とはいえ、小蔵屋に集っていた彼らの日々はまだまだ続く。そうした意味において、ひと区切り。ピリオドではなくカンマ、あるいは読点といったところでしょうか。
長きにわたるシリーズだけに、著者の私にとっては個人的なアルバムのようでもあります。オール讀物推理小説新人賞受賞や刊行の喜び。家族の闘病、度重なる永久の別れ、介護。家業のあれこれ。結婚生活の喜怒哀楽。あまりに厳しい状況だった時には「書くのなんてやめたら」とも言われましたし、「いや、書くんだ、書かなきゃだめだよ」とも言われました。どちらも家族からの真剣な言葉です。
結局のところ、執筆は私にとって救いでした。
考えてみれば、幼い頃から本は友だち。広く豊かな世界のどこにちっぽけな私が位置するのかを教えてくれ、「冒険してみたら」と背中を押してくれる。それは書き手となった今でも変わりません。
がんばってね。
しゃんとした着物姿のお草の声が、皆様へも届きますように。
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