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「そんな気分は失せてしまう」がん闘病中の医療ジャーナリスト(59)が「女性との性交渉をやめた」ある事件とは?

「そんな気分は失せてしまう」がん闘病中の医療ジャーナリスト(59)が「女性との性交渉をやめた」ある事件とは?

長田 昭二

『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』より #5

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #ノンフィクション

 かつて便器が真っ赤に染まるほどの血尿に悩み、それを止めるための手術をした医療ジャーナリストの長田昭二(おさだ・しょうじ)氏。しかし血尿は治まったものの、長田氏のカラダには「新たな変化」が…。氏が「女性との性交渉をやめる」きっかけになったある出来事とは? 新刊『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

抗がん剤治療を受ける前の筆者こと長田昭二氏 ©文藝春秋

◆◆◆

半年ぶりに見る透明な尿

 2020年7月6日、僕は東海大学医学部付属病院に入院して、HIFU焼灼術を受けた。治療には今回も手術室が使われ、全身麻酔下で行われた。超音波を発する器械を肛門から挿入し、直腸越しに前立腺に照射する。照射自体は痛みも熱さも感じることはないのだが、断面が3×2.5センチほどもある器械を肛門に入れるので、麻酔がなければ痛くてたまらないだろう。

 HIFU焼灼術は90分ほどで終了し、治療そのものは成功した。狙ったがん組織は焼き尽くすことができ、それまで続いていた血尿もピタリと止まった。

 HIFUを受ける直前の僕の血尿はひどいものだった。尿というよりもはや血液を排出しているような感じで、排尿後の便器は真っ赤に染まってしまっていた。駅などの公共施設のトイレで排尿する時は特に恥ずかしかった。後ろに並ばれると、白い便器を真っ赤な尿が染めていく様子を見られてしまう。こちらも恥ずかしいが、それを目撃する後ろの人のショックも大きかろう。そのため後ろに人が並ぶような混み合ったトイレで排尿する時、僕はあえて個室を使うようになっていた。

 それだけに、ほぼ半年ぶりに見る透明な尿は、健康のありがたさをしみじみと感じさせた。

 一方、驚いた現象がある。射精しなくなったのだ。いや、実際には射精はしているのだが、精液が外に出て来なくなったのだ。

なぜ射精できない?

 性機能を温存するためにHIFUを選んだので、精液は作られているし、精嚢に溜められてもいる。もちろん勃起もするが、射精はしない。

 どうなっているのかと言えば、精嚢から出た精液は、本来射精管から尿道を通って陰茎の先から飛び出すのだが、HIFUで焼灼したことで射精管と尿道の合流部の構造が変化し、精液は尿道を逆流して膀胱に流れ込むようになったのだ。

長田氏の近影 ©文藝春秋

 これを「逆行性射精」という。前立腺の手術や今回のHIFUのような治療によって、射精時には閉じているはずの膀胱頸部が開きっぱなしになることで起きる現象だ。それでも射精時の快感はあるし、いまさら子どもをつくるつもりのない僕には却って便利だったりもするのだが、やはり衝撃的だった。もちろん、精子そのものに影響はない。この状態で子どもを作りたい場合は、精巣から精子を取り出して人工授精することは可能だ。

 精液が外に出てこないだけで快感があるなら女性との性交渉も可能なのだが、実際にこの状況をわが身に受けると、そんな気分は失せてしまう。いちいちそんな説明をして、同意を得てからコトに及ぶのも面倒だし、相手の女性に逆行性射精という現象に興味を持たれても恥ずかしい。せっかく無理を言ってHIFUによる治療をしてもらったのだが、僕はこの治療以降(実際には血精液症を発症以降)、女性との性交渉は持っていない。

「就寝時は紙おむつを手放せなくなってしまった」がんになった59歳・医療ジャーナリストが衝撃を受けた「失禁の苦しみ」〉へ続く

文春新書
末期がん「おひとりさま」でも大丈夫
長田昭二

定価:1,023円(税込)発売日:2024年11月20日

電子書籍
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発売日:2024年11月20日

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