「声は人なり」という格言があるようですが、人の声には、本当にその性格や特徴が面白いほど集約されているんですよ。光浦さんの声は、いつまでたっても子供みたいです。アニメ声というのか、高くて強く、そのぶん人より目立ちます。じっさい、損することも多かったと本人も言ってましたが、率直で勤勉、若干の不器用さがあるのかもしれません。光浦さんはクラスで友だちと普通に喋ってても、「光浦がうるさい」と、なぜか一人名指しで言われがちだったとか。そのくらい目立ってしまうんでしょうね。存在感より声が勝つ。比べてその隣にいる大久保佳代子さんや私の声は通りにくく、常に低めなので意外に何かと得をしてます。声に華がないため、たとえ人の悪口を言っても、また口がすべっても、カドもそれほど立ちにくい。ヒソヒソ。目立たないことはこのようにいろいろ便利なのです。声に神秘性があると言いたいところですが、若干のこずるさがあるようです。
海外にいると人から気づかれず、そのぶん気楽だという光浦さんは今、カナダに移住中。不思議ですよね。目立つような業界にわざわざ自分から進んで入ったくせに、いざ売れて目立ってみると、疲れる・面倒・おっかない、となってしまうという。かくいう私も同じようなしんどさがあり、特に20~30代の頃は(人の視線には実は何か菌みたいなものがくっついてるのではないか?)と思うほど、視線を感じただけで、くたびれてしまってました。その一方で、そんな自分が不思議でした。見られるくらいのことで疲れるなんて、そんなはずないよね、気のせいだよね、などと思い、この複雑さをあまり考えないようにしてきました。光浦さんほど繊細さがないのも手伝い、本心を見ざる・聞かざる・言わざるの精神で無視してこれたのです。
それにしてもこの視線を浴びるという、一見華やかな毒については、一度誰か本にでも書いてくれないものでしょうか。視線だけでなく、スポットライトや拍手は温かく、優しく感じるためか、ちょっと愛に似ていると思います。だからこそ、それをあっさり手放すことは普通、怖い。まやかしだとはわかってるのに、怖いんですよね。注目を全部なくすということは、自分の視線を選ぶということで、人からどう見られるかということより、自分が何を見たいか、何を大切にするかを決めること。それゆえ海外移住は、ずいぶんな英断だと思うのですが、よくぞあっさり決めたものです。光浦さんのそういう武士道みたいなところは、あの明瞭な声に一番よく出てるかもしれません。
しかし思い出せば私はその声をもうちょい出さんかいと思った事がありました。まだ親しくなかった、20年ほど前、ロケ先のコンビニに2人で立ち寄った時のこと。私が(光浦さんと会話するきっかけになれるかもしれない)と思い、彼女の分もさっと支払いをしたんです。何百円の金額ですけど。そしたら光浦さんは、(あ)という感じで察すると、「どうも……」と言ったっきり、ツンツンしながら去ってロケバスに入っちゃったんですよ。何故だ。何故おごったのに不愉快そうだったのだ。
でも、後で理由がわかりました。聞けば彼女は、いきなり人に親切にされたり、愛情表現みたいなことをされると、驚きと緊張のあまり、逆に睨み返してしまう(なんでだよ)ヘキがあるのだとか。笑いました。なんと不器用で誤解の多い人生か。もっと昔はバイトで「いらっしゃいませ」すら、恥ずかしくて言えなかった光浦さん。何故だ。そりゃクビにもなるわ、です。読者の皆さんも光浦さんに会った時は急に親切にしないよう、くれぐれも用心してください。
先日は、カナダのお家に遊びにいきました。そこで会った光浦さんは、呆れるほどのびのびしてて、まるで憑き物でも落ちたかのようです。もちろん「こっちに住んで、私はとても幸せです」などとは一度も口にする人ではないのだけれど、全身から溢れ出す充実感、幸福感が顔にも出てたんです。笑ったのは、「みんな、そのうちカナダに遊びに行くとは言ってくれるんだけど、本当に来たのは清水さんだけで、あとはテレビ撮影で極楽とんぼの2人が来ただけ」。なーんだ。でももしも滞在先が、ニューヨークやハワイ、パリなら違うんじゃないでしょうか。なぜなら写真やSNSでバエるからです。カナダはバエ目的の旅行客はほとんどいません。実直。健康志向。花より実。自分の視線に忠実。そんなイメージがあります。8日いるうち、結局毎日会ってた我々。
ついでに初日には、彼女が作った変な格言ももらいました。これもよかったら覚えてください。私がカナダについた日から、1週間は雨予報だったのですが、やだなーと思ってると、光浦さんが真顔で「そういう時は腹に力を入れるんです」と言います。「星に願いを」みたいな響きだけど、「腹に力を」。そんなわけあるか。しかし、あの目立つ声につられて、一応やってみたところ、なんと雨は1日だけで済みました。7日が1日ですよ。言霊というくらいで、言葉にも力や魂があれば、人間なんとか乗り越えられることを深く知りました。その日から、私は光浦さんには一目置いています。光浦さんの本音が詰まってるこの本の中には、そんな力も溢れているはず。人生に雨が降りそうな時は、この本を読みながら寝てみてください。
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