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40年余に及ぶ実践で辿り着いた、不登校問題の解決バイブルの決定版

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

不登校を克服する

海野和夫

不登校を克服する

海野和夫

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 本来なら学校に行っているはずのわが子が毎日家にいる。その姿を見る親や家族は、これほどつらく悲しく、無念なことはないと言う。学校も、そこにいるはずの子どもがいない、寂しく残念なことだと嘆く。子どもの数は減りながら、不登校は全国あまねく、男女の別なく、親の職業や家族構成にも関係なく、発生比率を高めて増え続けている。現在、いくらかの地域差はあろうが、小学生は約五十人に一人、中学生は約十五人に一人が不登校のようである。

 また、教室でなく別室等に登校する子どもらを加えれば、その数はさらに増す。高校生は休学や退学、進路変更をする場合もあるので正確な数の把握は困難であるが、不登校の子どもたちの多くが進む通信制単位制高校の卒業率が、ごく少数の高校を除いて、3割程度と言われているので、学校不参加の子どもたちは膨大な数にのぼる。加えて不登校問題と密接な関連をもつ社会的引き籠もりの人たちの数を考えると、この問題はこの上なく深刻である。

 学校は、人が人に成るための必修の学びと生活の場であり、就学して、学歴を取得するところである。わが国の学校教育は一律の就学を制度としている。そのおかげで私たち日本人は、等しく教育を受ける機会を得て、生きるために必要な知識や技能を習得する。また、人と時間を共有して、より好ましい人間性を身につけ、その人らしい意味ある人生を全うする時と場を得る。学校は個々人が価値ある人生を創造する貴重で大切な学びの場である。

 不登校問題は一日も早い解決が必要である。再登校や再就学が実現したときの子どもたちの安堵とうれしい表情は、実に爽やかで美しい。周囲の喜びも一入である。私たち日本人は、この問題の発生を抑止し、子どもたちの再登校・再就学を具現するために、この問題を他人事にすることなく、愛と知恵、感性、行動力を結集して問題解決を図り、幸福感をともにする必要がある。

 

 私はかなり長い年月、いくつかの心理職の資格を取得し、市井の片隅で、新生児から大学生までの子どもたち、親や家族、そして教師などのカウンセリング(教育相談)に携わってきた。子どもたちが抱えるあらゆる問題に関わってきたが、特に多かったのは不登校問題であった。

 不登校問題への関与のねらいは再登校、或いは再就学の実現である。それは、この問題の本質と個々の事例の問題の所在を正しく理解し、手だてを工夫し、手順に従い、知恵と感性をはたらかせ、心して関わればほぼ実現する。この書では、心理療法を学び、また数多くの臨床体験から習得したこの問題の解決のための考え方や具体的な方策、経過、具体的な手法を明らかにする。さらに子どもたちの声も紹介する。加えて、本書の端々に、この問題のさまざま解き方を網羅しておく。参考になれば幸いである。

 子どもたちの自己成長、親や家族の変容、教師らの真摯な学び、心理職などの温かな支援によって、数限りなく再登校、或いは再就学は実現している。それらの経過や手だて、そしてこの問題に取り組む心のあり方を本書の端々で紹介する。参考の用になれば幸いである。

 またこれまで、不登校問題に関わるなかでたくさんのことを学んだ。それらを基に、不登校を生まない子育てや学校教育のあり方、社会一般の人たちへの願いなどの提言も行う。恐縮であるが行政当局への疑問等も付す。さらに、本文中に表現し切れなかった事柄を最後に総括的に述べる。

 この問題の発生抑止と解決のために、ともに行動する人たちが増えることを心から願う。

 不登校の子どもたちに告げる。

 こども園(以下、保育園や幼稚園、認定こども園などの総称の意)で行けなかったら小学校で学ぶ、小学校で行けなかったら中学校で学ぶ、中学校で行けなかったら高等学校で学ぶ、高等学校で行けなかったら大学等で学ぶ。大学院もある。そう思うことは、大切な心得であり覚悟である。

 

 これまで元不登校の人たちに数多く出会ってきた。二十歳、三十歳を過ぎても中学校卒業では、仕事に恵まれず、たとえ職に就いても、昇給や昇進がままならないという悲哀や嘆きの声をたくさん聴いてきた。結婚のこともである。

 この時代この社会では、中学校卒では、よほどの卓越した芸術的才能、秀でた運動能力、卓越したもの造りの技能、そして賢い商才がない限り、それなりの生計を立て、生き甲斐のある人生を創ることはなかなかに困難である。人生には、何をおいても、高等学校卒業以上の「証書(ライセンス)」が必要である。学校から退き、尻込みし、怖れ、そして拒否する心と態度はどこかに棚上げし、なるべく早く学校に行くのが賢明である。よいことが必ず訪れる。

 

 なお、子どもの呼び方は、乳児、幼児、児童、生徒、学生とさまざまであるが、本書では、一括りに「子ども」と表現する。教員は「教師」、カウンセラー等は「心理職」とした。

 二〇二五年 五月末日

海野 和夫


「まえがき」より

文春新書
不登校を克服する
海野和夫

定価:1,210円(税込)発売日:2025年06月20日

電子書籍
不登校を克服する
海野和夫

発売日:2025年06月20日

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