本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
「書店員の仕事にはたまらない瞬間がある!!」本屋が減り続ける時代に働く書店員のホンネ

「書店員の仕事にはたまらない瞬間がある!!」本屋が減り続ける時代に働く書店員のホンネ

文藝出版局

城戸川りょう×書店員座談会(後編)

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

「こんな会社辞めてやる!」『高宮麻綾の引継書』が、働く人の心を鷲掴みにするワケ〉から続く

「令和でも仕事に熱くなっていいんだ!」「月曜日が憂鬱なサラリーマンに読んでほしい!」と、多くの共感の声を呼んでいるお仕事小説『高宮麻綾の引継書』。出版不況が叫ばれる中、本作を読んだ書店員は自身の仕事をどう考えるか。前編に続き、著者の城戸川りょうさんに加え、ジュンク堂書店池袋本店の市川淳一さん、紀伊國屋書店新宿本店の反中啓子さん、ブックコンパスニュウマン新宿の成生隆倫さんに赤裸々に語ってもらった。

◆◆◆

書店でつくるストーリー

――書店員のみなさんは働いていて「たまらない」と思う瞬間はありますか?

市川:お客さんの動線を考えてストーリー仕立てにしたことがあって。その施策がハマった時の快感はひとしおでした。

城戸川:ストーリー仕立てですか。

市川:はらぺこグリズリーさんの『世界一美味しい煮卵の作り方』っていう新書があるんですよ。僕、大の煮卵好きで、どうしてもこの本を売りたかったんですね。

 そこで通常よりもたくさん仕入れて、あえて新書の売場じゃなくてレジの端っこのところにポンって置いたんですよ。

 僕が働いていたお店はレジの前に行列ができることが多いので、並んでいる最中に、例えば家族連れがたまたまこの作品を見て「これ凄く美味しそうだから作ってみようよ」っていう流れになったらいいなと。で、まさにそのシチュエーションでお客さんが買って行ったのを見つけた時はたまらなかったですね。

反中:すごい。良い話。

『世界一美味しい煮卵の作り方 家メシ食堂 ひとりぶん100レシピ』 はらぺこグリズリー(光文社新書)

絶版から救った

成生:印象に残っているのは、絶版寸前だった桜木紫乃さんの『砂上』を展開したことですね。凄く好きな作品だったんですけど、出版社に在庫がほとんどなくて。それでもどうしても推したくて「倉庫の端から端まで探せばあるんじゃないですか」と、今思えばかなり失礼なことを言ってしまったかもしれませんが、どうにか30冊くらい集めました。それで自作の拡材を作って展開したらすぐに売り切れたので、これは行けると思って出版社に猛プッシュしたら重版がかかったんですよ。

 後日、桜木さんから電話があり「絶版から救っていただいてありがとうございました」って言われた時はたまらなかったですね。

市川:売れている本もそうですけど、売れなくなってきた本をヒットさせるのは快感ですよね。

ブックコンパスニュウマン新宿より

これ絶対売れるぞ

反中:私も同じように自分が仕掛けたものとか「POPを読んで買いました」っていうのはもちろん嬉しいです。あと、新刊資料でこれから出る本のラインナップを見て「これ絶対売れるぞ」っていう作品を見つけた時がたまらない。なんか分かるんですよね。装丁とかタイトルとかで。

成生:オーラありますよね。

反中:あります。それを見つけた時は「これは絶対にやりたいな」って思いました。で、企画を立てる時は凄くわくわくするんですよ。

「面白い」でコミュニケーションが取れる業界

城戸川:『高宮麻綾の引継書』の刊行に際して、書店に挨拶回りに行かせてもらったとき、どこの書店さんも作品を凄く良いところに置いてくださっていて。一読者であった時、書店は本との出会いを単純に楽しむ場でしたが、僕ら読者と作品の接点を作ってくださっている書店員さんの大切さを強く感じましたね。

成生:僕が個人でやっているXを見て、お店に栄養ドリンクを差し入れに来てくれたこともありましたね。あの時は、プライベートだと聞いて凄く驚いた記憶があります。

城戸川:栄養ドリンク片手にお店を覗いたら成生さんの姿が見えなくて。でもお店の人に話しかけるのは恥ずかしかったので10分くらいお店の中をうろうろしてしまいました。そしたら偶然成生さんが奥から出てきてくれて。無事渡せてよかったです。

 その時も拝見したんですけど、成生さんがとてもいいPOPを作ってくれていて。先日、大学の先輩からLINEで「心の中に麻綾を宿すわ」って言葉とともに成生さんの作ったPOPの写真が送られてきて。興奮しましたね。

成生:面白い本を売ることが僕の書店員としての存在意義だと思っていて。それこそ麻綾を心に宿せばもっといいPOPが描けるんじゃないかと本気で思ったんです。

 城戸川さんの先輩の心に響いたなら、麻綾を心に宿して正解でしたね。

ブックコンパスニュウマン新宿より

市川:「面白いから推したい」って凄く大事な気持ちだと思うんですよね。本に全然関心なく働くのも一つの形だとは思うんですけど、「面白いよね」ってお互いにコミュニケーションが取れるこの業界はやっぱり素敵だと思います。

面白い作品を推す使命感

城戸川:僕は普段商社で働いているので、いろんな会社のいろんな商品を扱っているんですけど、その中でも自分がいいと思ったものを扱いたいなっていう気持ちが凄く強くて。それがあるからこそ、熱量を持って薦められるというか。「面白いから推したい」っていうのは共感できます。

市川:そういう意味では面白いって思った作品は絶対に薦めなきゃいけない使命感っていうのはありますよね。とっておきの作品には手書きPOPをつけたりします。

反中:私は模型を作りますね。例えば『高宮麻綾の引継書』ではA4の紙を模型のサイズに合わせて切って、1枚1枚貼っていったんですよ。それでエナジードリンクの模型もつくったりして。

市川:このノートパソコンをね。帰り際パッて閉めた後に書類をポンって乗せるんですよね。ここまでのストーリーが見えます。

紀伊國屋書店新宿本店より

書店員としてできること

――『高宮麻綾の引継書』は働く人のバイブルになりつつありますが、皆さんは新たにチャレンジしたい事はありますか?

成生:今後は雑誌での書評連載など、書店業務の枠を超えた活動もしていきたいと思います。もちろんフリーランスではないので出来ることに限りはありますが、書店員として本を出せたらいいですね。

 あと、将来はバーもやりたいです。自由に本について語り合ったり、作家も書店員も誰でも本好きな人が集まれるような。

反中:私は目の前にある仕事を精一杯こなしていくことを一番大切にしているので、文芸書担当としては『高宮麻綾の引継書』を仕事で悩んでいる方や、何を目標にして働けばいいのか迷っている人達にもっと読んでもらえたらいいなと思います。

 

市川:僕はこの作品を読んで、すごく思うところがあって。

 麻綾はまだ若手だから会社の実態が見えてないじゃないですか。そんな組織に自分の可能性を見出されてだんだん上層部と絡んでいく。そうすると上にいる人たちの解像度がどんどん上がっていくんですよね。そこで麻綾は、会社っていうものは「自分が入り込んで中から変えていけばいいんだ」って思う。

反中:「自分が中から変えていけばいい」という気持ちになっていく。若手社員である麻綾の成長の過程が描かれていますよね。

市川:まさに僕も同じような感覚があって。店頭で本を売る立場から、会社の内部に近い部署に異動になってからだんだん会社の解像度が上がってきたんですよ。

 今は現場と本部、両方の大変さを知る立場なので、その架け橋のような存在になれたらいいなと思っております。

城戸川:小説家は一生懸命物語を書いて、出版社の人と一緒に本を作るんですけど、最後の最後に読者の人に熱を届けてくださる書店員さんたちの存在の大きさをしみじみと感じました。

「面白そう!」と思って小説を手にとってくれる人がいるのも、みなさんが店頭で目立たせてくれたり、POPを作ってくださっているおかげなんですよね。そう思うようになってから、本屋さんの楽しみ方が一つ増えた気がしています。

城戸川りょう『高宮麻綾の引継書』特設サイトへ
単行本
高宮麻綾の引継書
城戸川りょう

定価:1,760円(税込)発売日:2025年03月06日

電子書籍
高宮麻綾の引継書
城戸川りょう

発売日:2025年03月06日

プレゼント
  • 『リボンちゃん』寺地はるな・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2025/06/27~2025/07/04
    賞品 『リボンちゃん』寺地はるな・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

提携メディア

ページの先頭へ戻る