
- 2025.07.14
- インタビュー・対談
「言葉」こそ人間を測る物差し…塩田武士『踊りつかれて』
「オール讀物」編集部
第173回直木三十五賞、候補作家インタビュー #4
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
〈元刑事が“刑事事件”に関わる作品集…芦沢 央『嘘と隣人』〉から続く
2025年7月16日、都内にて第173回直木三十五賞の選考会が開かれる。作家・塩田武士氏に候補作『踊りつかれて』(文藝春秋)について話を聞いた。(全6作の4作目/続きを読む)

◆◆◆
「言葉」こそ人間を測る物差し
〈誰かが死ななきゃ分かんないの?〉
一読してひやりとする、重い問いだ。『罪の声』や『存在のすべてを』など、社会に斬り込む作品を次々と世に放ってきた塩田さんが次に選んだテーマは「情報被害」。
「現代は『情報の世紀』です。私自身、2010年代半ばからSNS社会に息苦しさを感じるようになり、どこから来るものなのだろうと考え、違和感や苛立ちをメモし続けてきた。それが小説の素材になりました」
〈よく聞け、匿名性で武装した卑怯者ども〉〈SNSなんてなくなればいいのにな。えっ、ダメ? 余計なこと言うなって? そうだよなぁ。やっとおまえら権力者になれたもんな〉
物語は、突如ブログに書き込まれた「宣戦布告」から幕を開ける。
人気お笑い芸人の天童ショージと、80年代の歌姫・奥田美月。一方はSNSでの誹謗中傷を苦に命を絶ち、一方は週刊誌のデタラメな報道によって人前から姿を消していた。「宣戦布告」では彼らの関係者と思しき人物が、二人を中傷した者のうち特にひどい言葉を投げかけた83人のあらゆる個人情報を晒すのだ。冒頭の言葉とともに。
「誹謗中傷を行う側は、相手を屈服させたいと願い、できるだけ落ち込ませようと悪意のある言葉を選びます。もはや支配欲と言い換えてもいい。しかも作中で『安全圏のスナイパー』と名づけたように、彼らはみな『匿名』という隠れ蓑を被り、安全な場所から相手を撃とうとします。
しかし、匿名性は悪意の『免罪符』ではない。むしろ匿名の下に使われる言葉こそ、人間の成熟度をシビアに測る物差しではないでしょうか」
辛い現実から目を背けたくなるシーンもあるが、ブログの投稿者を弁護することになった女性弁護士・久代奏を中心に魅力的なキャラクターが集まり繰り広げられる軽妙な会話の応酬には、思わず笑んでしまう。
「何かを書くとき、常に二つのものの真ん中に立っていたいと思っています。緩と急、新旧、明暗、虚実……。
小説は特に“実”を見つめながら“虚”を書くことのできる唯一無二のもの。嘘ついてお金をもらえるなんて、詐欺師か小説家くらいのものですよ(笑)。
この作品を読んで、後ろめたくなったり腹を立てたりする人もいるかもしれません。でも、それを含めて読者の方と共有したいと思う一作にできたのは今回が初めてです」
「交響曲のような作品が書きたかった」という塩田さん。読後には、まるで上質な音楽を聴いた後のような光景が待っている。

塩田武士(しおた・たけし)
1979年兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、神戸新聞社に入社。2010年『盤上のアルファ』で小説現代長編新人賞を受賞し、小説家デビュー。同作で将棋ペンクラブ大賞文芸部門大賞も受賞。16年『罪の声』で山田風太郎賞、19年『歪んだ波紋』で吉川英治文学新人賞、24年『存在のすべてを』で渡辺淳一文学賞を受賞。他の著書に『騙し絵の牙』など多数。
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