
- 2025.07.14
- インタビュー・対談
日常に潜む狂気の扉を開く…夏木志朋『Nの逸脱』
「オール讀物」編集部
第173回直木三十五賞、候補作家インタビュー #5
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
〈「言葉」こそ人間を測る物差し…塩田武士『踊りつかれて』〉から続く
2025年7月16日、都内にて第173回直木三十五賞の選考会が開かれる。作家・夏木志朋氏に候補作『Nの逸脱』(ポプラ社)について話を聞いた。(全6作の5作目/続きを読む)

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日常に潜む狂気の扉を開く
夏木志朋さんの待望の二作目『Nの逸脱』は三つの短編小説を収めた作品集だ。架空の町・常緑町を舞台に、平凡な日常の中で突如として起こる異常な出来事や、人々の心の闇を鮮やかに描き出している。
「二作目で何を書くかと悩んでいたところ、Web連載のご提案をいただいたんです。毎月締切があるのは苦しかったですが、書いた作品を期日までに出すしかないという状況はありがたくもありました。なかなか次の作品を出せずに悩んでもいたので、とにかく書いて出すという状況に自分を置けたことは大きかったです。実は、最初に書いた一篇は、アパートの隣室の住民が怪しい……という物語だったのですが、単行本には収録しませんでした。
もともと一冊の本としての完成形を描かず始めた連載で、一作一作を書きながら方向性を探っていったのです。私は小説を書く上で、細かなプロットは作りません。とはいえ、まったく何も考えずに書くということもないんですけれども、登場人物のベクトルや、物語全体の大まかなイメージだけを考えて書き始めたほうが上手くいく場合が多いです」
一篇目に収録されている「場違いな客」では、爬虫類ショップの店員が、ある客の自宅に侵入しようとしたところ、思いがけない秘密に触れてしまう。
「『二木先生』で鍵を握っていたクローゼットが、この作品にも登場します。デビュー前に書いた掌編は、会社員の女性が押し入れの中で大麻栽培をする話でしたし、クローゼットや押し入れは、自分の中で存在感のあるモチーフなのかもしれません。今作では、書きたいものが先にあり、そのために登場人物を作っていきました。デビュー作では、書きたいテーマとキャラクターが同時発生していたので、また違った作り方に挑戦することができました」
最終電車に乗り込んだ女性教師が、ある“逸脱”に走る「スタンドプレイ」。占い師・坂東イリスの元に、特殊な能力を持った女が弟子入りを志願してくる「占い師B」。いずれも読者を予想外の世界へと誘う本作は、心を捉えて離さない魅力に満ちている。
「初めて投稿した小説でデビューしたこともあり、物語のストックがない状態でのスタートでした。今作を書く中で、作家として歩みたい方向性が見えてきました。私はスティーブン・キング作品の大ファンであり、ありふれた毎日の地続きにあるドラマが好きだなということも、改めて発見しましたね(笑)。二作目で得た指針を大切にしながら、ジャンルを問わず、様々な作品に挑戦していきたいです」
夏木志朋(なつき・しほ)
1989年大阪府生まれ。大阪市立第二工芸高校卒。ポプラ社小説新人賞を受賞した「ニキ」が2020年に刊行され、デビュー作となる。同書を改題して文庫化した『二木先生』が15万部を突破するベストセラーに。他の著書に『ゲーム実況者AKILA』。アンソロジー『私を変えた真夜中の嘘』にも作品が収められている。
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