*解説文中で小説内の事件展開について述べられている箇所があります。
長崎の古物商「綺羅屋」の倅で、オランダの語学と医学に通じ、唐絵目利きもできる瓢六。知恵も口も人一倍。おまけに絶世の色男で、売れっ子芸者のお袖とは恋仲だ。しかし、博打で牢に入れられるなど、小悪党暮らしをしている。
その瓢六の才知を認めたのが、北町奉行所与力の菅野一之助だ。一之助の命により、堅物の定町廻り同心・篠崎弥左衛門と組んだ瓢六は、互いにぶつかり合いながら、数々の事件を解決していく。そしてふたりは、しだいに深い絆で結ばれていくのだった。
というのが、諸田玲子の「あくじゃれ瓢六捕物帖」シリーズのアウトラインだ。しかし四弾となる本書『再会 あくじゃれ瓢六捕物帖』は、設定に大胆な改変がなされている。まず時代が三年ほど飛んでいる。しかもその間に、お袖が火事によって行方不明になってしまったのだ。おそらく死んだものと思われる。このショックに耐え切れず、仲間たちの前から姿をくらました瓢六。いまは不良旗本・小出家のもとで借家暮らしをしているのである。帰らぬ日々への感傷に溺れ、すさんでいる瓢六。でも、冒頭の、
「腹立ちまぎれに足下の石を蹴とばそうとしてすっころぶ。尻餅をついたところを野犬に吠えかかられ、カッとなって石を投げつける。それでも、甲高い鳴き声をのこして逃げてゆく犬に片手拝みをしてわびたのを見れば、根っからの悪党でないのがわかる」
という一文を見れば、性根までは腐っていないようだ。そんな瓢六だが、弥左衛門と再会したことから、時が動き出す。天保の改革が始まり、江戸には権力の暴威が襲いかかろうとしていた。そのことを察した弥左衛門は、中風の後遺症を隠しながら、水面下の戦いに身を投じようとしていたのだ。その仲間として、かつての相棒の瓢六を求めたのである。過去に引きずられ、なかなか首を縦に振ることのできない瓢六だが、弥左衛門の岡っ引きをしていた源次と、その孫娘を巡る騒動を知り、これを解決するために奔走。旧知の不良御家人・勝小吉と息子の麟太郎(後の海舟)を頼り、なんとか孫娘を救う。しかし、老中・水野越前守を後ろ盾とする地廻りに、源次が殺されてしまった。怒りに燃える瓢六は、巨大な権力と戦うことを決意。弥左衛門や一之助。越前守の敵対勢力に仕えているらしい奈緒という女。賀野見堂の、鶴吉と筧十五郎……。瓢六は仲間たちと共に、越前守の手先となって天保の改革を進める南町奉行・鳥居甲斐守と、激しい戦いを繰り広げるのだった。
いきなり三年の歳月が経ち、お袖は生死不明。人生に希望の持てない瓢六は、くすぶるように生きている。シリーズ物としては、ずいぶんショッキングな展開である。でも、前三作があるからこそ、主人公の絶望が納得できる。源次の悲劇を経て、再起していく姿に、胸が熱くなる。すでに読者が感情移入している、シリーズ物のフィールドを活用して、瓢六の再生の物語を、十全に描き出すことに成功しているのである。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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