「一病息災」という言葉をご存知でしょうか。

 病気が全くない状態よりも、持病を一つ抱えていることによって自らの健康を気遣い、かえって長生きすることができるという意味です。

 これは、人生100年時代を迎えた今の日本において重要な示唆を含む考え方と言えるでしょう。現代の高齢者の健康状態は、昔とは大きく異なっています。高血圧症、糖尿病、心臓病、慢性気管支炎、骨粗鬆症、白内障など、年齢とともにかかりやすくなる病気を、同時にいくつも抱えているシニアが大勢いる。これは寿命が延びたことによって、罹患する病気の種類が増加した影響と言えます。

 こうした状況において、個別の専門医がそれぞれの疾患を診るだけでは不十分なことが増えてきました。そこで重要になるのが老年科専門医の存在です。

 老年科専門医とは、老年期に特有の複数の慢性疾患を、総合的に診療できる医師を指します。日本では現在、呼吸器専門医が約1万9000人、循環器専門医が約1万3000人いるのに対して、老年科専門医はわずか1800人程度しかいない特殊な医師です。

 では、具体的に老年科専門医はどんな仕事をしているのでしょうか。例えば、ある高齢者が肺炎と不整脈を併発したとしましょう。呼吸器科と循環器科の専門医がそれぞれの疾患に対応したとしても、体全体に起こる問題を見通した治療はできません。老年科専門医は、これらの症状を一体として捉え、薬の副作用や手術のリスクなど全体を見据えて診断・治療をします。

 私もその老年科専門医の一人で、長らく高齢者の病気と向き合ってきました。1982年に名古屋大学医学部老年科に所属して以来、アメリカ国立老化研究所、国立長寿医療研究センターなどで、老化、予防医学、栄養学の研究に取り組んできました。気がつけば、もう40年以上この分野に関わってきたことになります。

 今や、90歳を超える高齢者は珍しくありません。ただ、いくつもの疾患を抱え、食事や普段の行動に制限を余儀なくされていると充実した人生とは言い難い。ほんの少し生活を見直すだけで、シニアがかかりやすい病気を未然に防ぐことは十分に可能です。

 健康長寿のためには「血管の柔らかさ」と「血流の良さ」が必要だと考えています。血管が柔らかくしなやかで、血流が良い人は、高血圧症や心筋梗塞などの循環器疾患に罹りにくい。また、血液がサラサラであれば、糖尿病などのリスクも下がります。つまり、生活習慣病になりにくい体を持っているのです。

 血管と並んで、特に重要なのが骨です。若い世代でしたら約3年周期で作り替えられるのですが、高齢者の場合、新陳代謝が遅くなる影響もあって、置き換わるのに約5~10年かかります。

 また、加齢で骨の中がスカスカになりやすいことも忘れてはいけません。骨密度が低下すると、転んだ際に大腿骨骨折など、入院を要する大ケガに発展する可能性があります。血と骨の改善・強化は、健康的な老後を送るための生命線と言えるでしょう。

 本書は、血流を改善しつつ、骨を丈夫にするための、長寿に重要なメソッドを中心にまとめています。食事面から長生きの知恵と健康法を学ぶ【食事編】と、シニアの健康寿命を脅かす病気の危険性と対策を解説した【病気編】の2編に大別しました。まずは理解しやすい【食事編】から読むことによって、【病気編】の対策がおのずとわかるように構成しています。

 90歳まで健康長寿につながる一冊として、日々の食事や生活習慣の改善に役立つ「養生訓」になることを願っております。


「はじめに――長寿の秘訣は血と骨にあり」より