「そりゃあ、付き合えるのなら付き合いたいけど…」30代女性オタクが“現実の声優”に対して抱く「リアルな欲望」の中身〉から続く

「好きなものを応援する」ポジティブな言葉として使われることが多い「推し」。だが、学生のささやかな「推し」と、身を滅ぼすほどの金銭や時間を投じる「推し」は、少なくとも言葉のうえでは地続きだ。

 アイドルを推し続けて「婚期を逃した」と語る【マミ】(仮名)は、現在46歳の女性。恋愛対象は男性だが、14年間にわたり情熱を注いできたのは「ハロー!プロジェクト(ハロプロ)」の女性アイドルたちだ。

 そんな彼女が研修生時代から一貫して推し続けてきたのが、アイドルグループ「アンジュルム」元メンバーの佐々木莉佳子。親子ほど歳の離れた彼女は、いったい【マミ】にとってどんな存在なのか。以下、『「推し」という病』(文春新書)より抜粋して紹介する。(全3回中の2回目/つづきを読む

写真はイメージ ©︎maruco/イメージマート

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アイドルの恋愛は許されるのか

 ここで今一度、「推し活」における疑似恋愛について考えたい。

「推し」を疑似恋愛の対象として見る場合は、心理的に恋愛スキャンダルは許容できるものではない。そして、恋愛スキャンダルが報じられるたびにアイドルの恋愛の是非をめぐる議論が巻き起こる。

 アイドルの恋愛を容認する賛成派は、恋愛は憲法13条の「幸福追求権」で保障された基本的人権であり、仕事によって制限されてはならないものであり、なおかつそれを禁じることは現代のジェンダー観や多様性尊重の風潮に逆行するという意見を語る。

 これに対して否定派は、疑似恋愛を前提に応援してきたファンの気持ちを裏切る行為であると非難する。あるいは、恋愛にうつつを抜かすと、仕事への集中力やプロ意識が低下するといった、ずいぶんとお節介な物言いも目立つ。

 いずれにせよ、恋愛スキャンダルが発覚すると、そのメンバーおよびグループ全体の売上が落ちる、というのが業界的には定説で、アイドルの恋愛事情はアイドルサイドからオープンにされることは少ない。言いかえるなら、まだ社会的には正解を持っていない、とも言える。

【マミ】はアイドルの恋愛についてどのように考えているのか。

「キモいおじさん漬け」になってほしくない

「私はアイドルには恋愛をしていてほしいです。あたりまえの青春を経験して、ちゃんと社会性を持ったうえで誰かと結婚してくれたほうが幸せになれるじゃないですか。社会のことを何も知らないで、おじさんのオタクと握手ばっかりしていると、すっごいストレスが溜まると思うんですよね。小・中学生からずっと……、キモいおじさん漬けじゃないですか。本当に狂っちゃうと思うんですよ。そうはなってほしくない」

 否定派の中には、オタクは金や時間を貢いでいるのだから「アイドルもすべてを捧げるべき」との強硬な意見を持つガチ恋勢も少なくない。

「それがキモいんですよ。自分なんかがアイドルと同じところに並んでると思わないでほしいんですよね。あんな若い子たちが青春を捧げて(アイドル活動を)やってくれてるのに、こっちが何か言える立場だと思うほうがおかしい。なんでそこまで捧げさせる必要があるんだろう。せめて青春を謳歌していてほしいと願っています。アイドル活動も人生も、両方楽しんで社会性を身につけてほしい」

もし「佐々木莉佳子の恋愛」だったら?

 リベラルで良識的な考え方だ。もちろんそこには、「男にそそのかされたくない」という彼女独自の考え方も反映されているように思う。ただし、「誰かと結婚してくれたほうが幸せになれる」という意見には、結婚と幸せを結びつける旧来型の価値観が垣間見えよう。リベラルと保守性、2つの価値観が彼女の中に混在してはいないか。

 もう一歩踏み込んで質問を投げかけてみた。その対象が彼女の「推し」だったらどうか。「アイドルの恋愛」という一般論ではなく、「佐々木莉佳子の恋愛」だったら、【マミ】はどう思うのか。

「アンジュルム」時代の佐々木莉佳子(本人Instagramより)

「莉佳子には、(男性とは恋愛)しないでほしい、と思っていました。男の子とか……、それこそジャニーズのアイドルと付き合っていたらすごく嫌だな……、と」

イベントで会うと「毎回キュンとする」

 前述の言とは裏腹に、強い抵抗感をにじませる。実際に「推し」に会った時の感想を、噛みしめるように語ってくれた。

「接触イベントに行ってみると、こんなにも簡単に会えるのかと驚きました。しかも常連のオタクは、しっかり莉佳子から認知されているんですよ。もっとたくさん会いにくればよかったとその時思いました。……莉佳子に会うと、キュンとするんですよね。毎回キュンとする。だから好きな人に会える感覚なんですよ。輝いて見えるんです、本当に。莉佳子は“理想の彼女”のようでもあり、“理想の彼氏”みたいな感じでもありました。でも、莉佳子に認知されたとして、何がしたかったのか……、ちょっとよくわかんないです。仮に『莉佳子と付き合えるよ』と言われたとしても、私じゃあ付き合えないと思うんですよね。どうせなら他のハロプロメンバーと付き合っていてほしいとか、そういう宝塚的な目線で見ていた部分もあります」

【マミ】にとって佐々木莉佳子は、「異性愛的な恋愛対象として振る舞う旧来のアイドル像から逸脱した存在」として映っていたのかもしれない。

「女っぽくなっていくのに抵抗がありました」

 だが、年齢を重ねるとともに、次第に「推し」は在り方を変えていく。ボーイッシュだった少女は、雑誌『Cancam』(小学館)の専属モデルになり、フェミニンな魅力を見せ始める。

「莉佳子が女っぽくなっていくのに抵抗がありました。モデルをするようになってからは、エクステをつけたり、ネイルをゴテゴテにしたり、ちょっとギャルっぽい時期もあったり……。見た目が“女性”って感じになりました。正直に言えば、そういうのはあんまり好きじゃないなぁ、と思っていました」

 ファッション誌の専属モデルに抜擢されることは、本来であれば、ファンとしては喜ばしいはずだ。「推し」が活躍の場を広げたのに、それを素直に喜べない。むしろ「あんまり好きじゃない」と言ってしまう。

 私の好きだった「推し」じゃない、あの頃の唯一無二の魅力が失われてしまった──。「自分だけが知っている特別性」が剥奪されていくようで、喪失感とさびしさを感じていた。

「血まみれのチェキをSNSにアップして…」推し活に人生を捧げる20代女性が同棲パートナーの“裏切り”に見せた「まさかの行動」とは〉へ続く