「おにぎり1000円、大卒初任給100万円」エミン・ユルマズ×杉村太蔵が語る“超インフレ時代”の投資術〉から続く

 投資家としても「じつは大成功」している杉村太蔵氏は、新著『杉村太蔵の推し株「骨太」投資術』の中で、インデックス投資を「新手の貯金」と語る。『エブリシング・ヒストリーと地政学』が版を重ねるエコノミストのエミン・ユルマズ氏は、地政学的な見地から、ヘルスケアやAIなど世界のメガトレンドに着目。到来する「超インフレ時代」に打ち勝つ銘柄を語り合った。

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杉村太蔵氏 撮影・山元茂樹(文藝春秋)

「オルカン」「S&P500」は“新手の貯金”

エミン 投資を始めるきっかけという点では、インデックス投資信託の積立もアリかもしれません。

杉村 私はインデックスの積立投資は魅力を感じないですね。「オルカン(オール・カントリー)」や「S&P500」などのインデックス投資はリスクを限りなく減らして資産形成できる手段、つまり防御の資産形成としては有効かもしれませんが、貯金に毛が生えたようなもの。いわば“新手の貯金”ですよ。安心を何よりも重視したいなら定期預金でいいのではと思ってしまいます。

エミン いや、インデックス積立だって貯金とは違い100%安心安全ではないので、投資しているという意識を持つべきです。

杉村 私はインデックス投資信託は、様々な企業を寄せ集めた福袋のようなものだと思う。福袋って不要なグッズが入っていたりするでしょう。本当に自分の欲しいグッズを吟味して適正な価格で買うほうが満足度が高まるのと同じですよ。

エミン まあ、株式投資の王道は個別株なので、本音を言えば勉強して個別株を買ってもらいたいですね。

「国策」「世界流れに沿ったメガテーマ」がキーワード

杉村 先日発売になった私の書籍『杉村太蔵の推し株「骨太」投資術』のなかでもお話ししているんですが、私は「投資とは自分のお金を社会をより良くする使命感から投ずる行為」だと思っているんです。つまり、推しがビッグになれるように応援する「推し活」に似た行為なんです。

エミン では、どのように銘柄を選んでいますか。

杉村 私がお勧めする方法が政府の経済財政諮問会議が公表している「骨太の方針」を読むこと。ここには日本が抱える社会課題と突破口が示されているので、その課題解決に関連する銘柄を探すのです。

エミン まさに「国策に売りなし」(国策に関連する企業や業界の株は売らずに買い増すべきという投資格言)ということですね。

杉村 はい。「骨太の方針2025版」には、大きな柱として「物価上昇を上回る賃上げの普及・定着」「地方創生2・0の推進及び地域課題への対応」「投資立国・資産運用立国による将来の所得増」「国民の安心・安全の確保」が挙げられています。ここから私が考えた注目投資ジャンルは、「賃上げと労働改革」「リスキリングと人材戦略」「地方創生とインフラ整備」「AIと半導体」「資産運用立国戦略」などです。

エミン・ユルマズ氏 

エミン 私は国策にプラスして、世界の大きな流れに沿ってメガテーマを4つ掲げています。それは「ヘルスケア」「通信・半導体」「防衛関連」「環境」です。高齢化に伴いヘルスケア関連消費が増えるのは必至。また、世の中はすべてクラウドで動いているため、通信はこの4分野すべてに関わってくる。防衛には水や食糧、エネルギーの安全保障も含まれます。環境関連は一時期に比べて投資テーマとして盛り上がっていませんが、新規エネルギー投資の半分以上が化石燃料に代わる代替エネルギー関連であり、実体経済としての投資はむしろ増えている。この大きなテーマから細かい数字を見て自分のストーリーを作り銘柄を選びます。

株主総会は将来の数字を判断する重要材料

杉村 ストーリーとは、どのように作るのでしょうか。

エミン 現在の売上、市場シェア、時価総額などを見て考えていきます。基本的に、「売上と時価総額を同じと考える」をベースにするとわかりやすいでしょう。たとえば、2018年の段階でソニーのゲーム&ネットワークスサービス分野はネットフリックスを上回る売上を持っていました。一方で、2社の時価総額には大きな差があり、ネトフリの17兆円程度に対し、ソニーはその半分以下だった。それでソニーの時価総額も17兆円程度まで伸びると予想したらその通りになった。そうやって自分のストーリーを組み立てます。

杉村 5年後、10年後の売上などはどう予想しますか。

杉村太蔵氏 

エミン 将来の数字を判断する材料の一つが株主総会。ここで、経営者に「5年後の売上目標は?」「10年後の市場シェアはどれくらい?」などとよく質問していました。それを具体的な数字で答えられる経営者は頭の中にビジョンがあると言えます。「業界トップを目指します」みたいな曖昧な答えだとビジョンが見えません。もちろん未来のことなのでどうなるかわかりませんが、経営者の頭に具体的なビジョンがあることが重要なんです。もしビジョンと市場の評価が一致していなければ、何が問題なのかを検証できる。ビジョンがなければ検証すらできませんから。

株主総会は“推しの考えを知ることができる無料のファンミーティング”

杉村 私はビジョンに加えて経営者のパッションも知りたいですね。大切ですよ、パッション! この人に大切な財産を託したいと思える経営者かどうか。私が好きな経営者の一人がNECの社長兼CEOの森田隆之さん。森田さんは財務最高責任者だった頃、株主に中期経営計画を突き返され「これまで計画どおりになってきたことがないじゃないか」と叱られたそうです。そこで、信頼される会社にするべく改革に取り組み、株価も上昇した。こういった株主に対する誠実な姿勢を重視したいですね。

 また、自社の製品やサービスが社会課題解決にどう役立つのかを把握して株主に明確に説明できる経営者であることも必須です。

エミン 最近あまり株主総会に行けていませんが、情報を得るという点で非常に重要な場ですよね。

杉村 株主総会は“推しの考えを知ることができる無料のファンミーティング”ですからね。また、私は経営者が従業員に対して誠実であるかも重視しています。「OpenWork」や「エン カイシャの評判」などの就職・転職用の口コミサイトに従業員のリアルな声が書かれているので参考になります。

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いくらで売るかではなく、いつ売るか

エミン 太蔵さんは投資を推し活に例えていますが、私は銘柄に恋はしません。自分の描いたストーリーが完結した時、つまり予想していた時価総額に達したら、サッと売却して次の銘柄を探します。ストーリーが決まっていれば狼狽売りもしなくて済む。株価はノイズであり、毎日上げ下げするものだからそこに一喜一憂してはいけません。

杉村 株価に一喜一憂するなというのは同感ですが、投資に対する基本的なスタンスは異なりますね。私のポリシーは「いくらで売るかではなく、いつ売るか」。株を手放すタイミングは75歳から80歳頃と決めています。人生100年時代、私たち就職氷河期世代は80歳まで働くのが当たり前になるので、仕事を辞めるタイミングで徐々に売却し、それまでは配当金を狙って持ち続ける。

 私の著書『杉村太蔵の推し株「骨太」投資術』では、今後10年で株価2倍、株価10倍が期待できる銘柄を分析し、それらを組み合わせてポートフォリオを作る方法を提案しています。また、骨太の方針は毎年少しずつ変わるので、以前書かれていた社会課題が解決した場合は途中で売ったり、新たな課題が生まれた場合は別の銘柄を買い足す必要もあります。
 

不幸をゼロにする事業はビッグマネーが動く

エミン 社会課題という点では、今後AIはあらゆる課題に関わり、その領域の成長を支えることになる。先ほど挙げたヘルスケア分野にしても、個人の遺伝子をAIで解析して個別最適化された薬が作られる時代がくると思っているんですよ。そうなるとヘルスケア領域全体が大きく成長することになるでしょう。

杉村 私は最近出てきた比較的新しい社会課題に取り組む企業も10倍株として期待しています。たとえば宇宙ゴミ(スペースデブリ)を清掃する「アストロスケール」という会社はおもしろいと思いますよ。宇宙空間に漂うデブリが人工衛星や宇宙ステーションに衝突すれば日常生活に大きな混乱が生じるため、それの回収という課題解決のために生まれた事業です。

 世の中の事業を大別すると「不幸をゼロにする企業」と「幸せを増幅させる事業」の2つがあります。「デブリの衝突による混乱」という不幸をゼロにして平穏な日常を保つという点で、宇宙ゴミの清掃はなくてはならない事業。このように不幸をゼロにする事業はビッグマネーが動く可能性が高い。今後は投資だけではなく職業選択においても、社会課題を解決する仕事を選ぶかどうかが給与を左右するかもしれません。

人手不足は足枷ではなくチャンス

エミン 現在は人が余っている仕事と人手不足の仕事が二極化している状態。人手不足の仕事は賃金が安いことが多く、オートメーション化によって労働生産性を上げ、賃金を上昇させる必要があります。そのため、AIやロボット分野などのテクノロジー投資が進んでいくことになるでしょう。

杉村 骨太の方針には最低賃金を全国平均で1500円にするという目標が記されており、「時給1500円を払う努力ができる経営者だけが生き残れる」というメッセージが感じられます。政府はこれまで倒産に伴う失業率の上昇を恐れてきましたが、今は人手不足なので倒産が増えても失業率は上がらないですからね。

エミン 雇用の流動化を促すという点でも、人手不足は足枷ではなくチャンスと捉えられます。

杉村 また、地方の中小企業のM&Aも進んでいくと思います。限界に近づいている中小企業と成長したいと考えている企業のM&Aを促進することで生産性を上げて賃上げの流れを作るわけです。その点で私は「日本M&AセンターHD」や「M&Aキャピタルパートナーズ」といったM&A関連銘柄にも注目しています。

エミン すべての銘柄に共通して言えるのが、時間は最大の資産だということ。複利の効果を最大化するためには早く投資を始めることが大事。まず第一歩を踏み出して欲しいですね。