- 2016.07.25
- インタビュー・対談
若者よ、憧れとロマンを持て――あと、英語は大事。
「本の話」編集部
『僕はこうして科学者になった 益川敏英自伝』 (益川敏英 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
――2008年にノーベル物理学賞を受賞された際に、「大してうれしくない」と言って話題になりましたね。
「あれはね、本当に腹を立てていたんです。あの時ノーベル財団から電話がかかってきて、『1時間後に世界に発表しますから受けてもらえませんか』と言うんです。いちおう『ありがとうございます』と言って電話を切ったんですが、だんだん腹が立ってきてね。賞というものは普通、数日前に内定を報せ、受けてもらえるかどうか返事を待つものでしょう? 1時間後に発表なんて、受けて当然、辞退する人なんかいないでしょと言っているふうに聞こえました。だからつい、『大してうれしくない』と口に出たわけなんです。
でも、授賞式でスウェーデンに行ってみると、楽しかった。ノーベル財団は小さな組織だけど、対応がエレガントだった。ゆったりしたスケジュールで、滞在を楽しんでほしいという心遣いがあった。ひとりひとりにアテンダントがつきましたが、僕が英語ができないのは知られていて、奥さんが日本人で日本語のうまい通訳の人をつけてくれました」
――ストックホルム大学での受賞記念講演も、特別に日本語でされたものでした。
「最初にアイム・ソーリー、アイ・キャンノット・スピーク・イングリッシュと言ってね、あとは日本語。英語嫌いは中学1年のときからで、先生に当てられたときにマネー(money)を『もーねい』と読んだ。するとクラス中が大爆笑。先生まで『もーねいか。確かにお金はすぐなくなる』と笑う。それですっかり英語は性に合わないと捨ててしまったんです。今に至るも、英語は苦手。でも英語の論文を人に訳してもらっていては商売にならないから(笑)、読むほうは出来ます。けど、喋ったり書いたりはできない。論文は誰かを共著者にして書かせます(笑)」
――では英会話は出来なくても大丈夫ですか?(笑)
「これから科学者になろうとする人は、そうはいかないでしょうね。かつて我々の学生時代はクイーンズイングリッシュでないといけないとされていたけれど、今では国際学会に行ってもインドなまりでもブラジルなまりでも、みんな平気で英語をしゃべってるから、日本人も下手でも気にしないでしゃべればいいんですよ」
――益川さんは小さい頃は本当に宿題が嫌いで、勉強をしなかったんですね。
「だって、遊んでる方が面白いじゃない? 僕が小学校に入ったのは戦後すぐ。親は子どもの教育に手取り足取りかかわれるような時代じゃなかった。ほったらかしだから僕は毎日遊びまわっていたけど、最初は両親は気づいていなかった。でも進級して新学期の前、それまで使っていたノートを親が見たら、何も書いていない。真っ白(笑)。これはいかんというので、母親が『たまには宿題を出してください』と学校の先生に言いにいった。すると『もちろん毎日宿題を出しているけど、おたくの息子さんが一切やってこないんです』と言われてしまった。これですっかりバレてしまったわけです(笑)。いや叱られましたね」
――そんな益川少年はどうして科学者になろうと思ったんですか。
「もともと父親が科学好きで、銭湯からの帰り道に月の満ち欠けやモーターがなぜ回るのかなどいろいろ話してくれたので、科学に興味はあったんです。小学校のときには本の魅力に目覚めて、図書館で『十五少年漂流記』や少年向けの江戸川乱歩などを夢中になって読むようになった。決定的だったのは、高校1年のある日、名古屋大の坂田昌一教授が世界的に画期的な学説を発表したという記事を読んだことです。科学は欧米のものだと思い込んでいたところが、こんな身近で世界的な研究が出来るんだということに目を見開かされたんです。それで、大学に行こうと思って、猛烈な受験勉強を始めたわけです」
――その後の益川さんの歩みは『僕はこうして科学者になった 益川敏英自伝』で詳しく語られていますが、いま、科学者を目指す若者にどんなことを伝えたいですか。
「僕がいつも言っているのは、科学者も憧れとロマンを持て、ということです。時代のせいかもしれないけど、はちゃめちゃな子供がいなくなったね。先を見過ぎて、夢が小さくなっている。科学者だって、ドン・キホーテが騎士に憧れるように、野球少年がイチローに憧れるような夢をもちたい。そしていざやってみると、自分の予想と違うことがいっぱい出てくる。そこでいろいろ修正を加えていく。そうやって少しずつ、夢に近づいていく――でも、英語は大事だよ(笑)」
写真◎志水 隆
僕はこうして科学者になった
発売日:2016年08月05日
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