書評

夢の科学者対談

文: 永田 紅 (京都大学 物質-細胞統合システム拠点〈iCeMS〉博士研究員、歌人)

『「大発見」の思考法――iPS細胞vs.素粒子』 (山中伸弥・益川敏英 著)

 子供のころ、生き物が「どうなっているのか」を見るのが私は好きだった。夕食のみそ汁のアサリをつまみあげて、「これが入水管でこっちが出水管」とひとり納得したり、焼き魚を解体しながら食べたりして母親に呆れられたものだ。夏休みの自由研究で楽しかったのは、キノコ採集、菌糸の培養、和紙作りや石鹸作り。手塚治虫の『ブラック・ジャック』を愛読して外科医に憧れもした。算数は苦手だったけれど、理科が好きだった。

 理系離れが叫ばれて久しいが、だれでも子供時代に、身の回りのサイエンス――日蝕はなぜ起こるのかとか、ラジオを分解したらどうなるだろう、蝉の羽化がどのように進むか――に夢中になったことがあるにちがいない。

 本書は、だれもがもっていた、そんな子供時代の純粋な好奇心、熱中を思い出させてくれる。そして、その情熱をもち続けて研究をしているふたりの科学者の生き方をいきいきと伝える。益川敏英と山中伸弥。日本を代表する科学者の対談集である。
「小林・益川理論」による益川先生のノーベル物理学賞受賞は記憶に新しいものであるし、山中先生が作成に成功したiPS細胞は毎日のようにメディアを賑わせている。理論物理学、生命科学と研究分野は異なるものの、これほど思いがけない、そして研究を語るのにぴったりな夢の顔合わせはないのではなかろうか。

「CP対称性の破れ」や「iPS細胞」がどのようなものであるかについては本書をお読みいただくことにして、この対談の魅力は、世界的な科学者の素顔に触れられることだ。

 おふたりは、以前にも二度ほど顔を合わせたことがあるとのことであるが、じっくりと話をするのは、今回が初めての機会。対談ならではの新鮮な言葉のやりとりの中で、論文やインタビューだけからではうかがい知ることの出来ない魅力的な人物像が浮かび上がる。私は山中先生と同じ研究機関に属する研究員で、今回、幸運にもこの対談に立ち会う機会をいただいた。

 二〇一〇年の初夏、竣工して間もない、真新しい京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の一室。益川先生は約束の時間より少し早めに到着された。荷物を持たずに身軽にやってこられた様子には、いつも歩きながら、身ひとつで考え続けている物理学者、という風格がただよう。ノーベル賞の受賞を「嬉しくない」と言って話題になったが、その後涙を見せたり、万歳をしておどけてみせたりなど、親しみのあるキャラクターはテレビでもお馴染み。対談がはじまると、じつに楽しそうに、熱くいきいきと話される。

「大発見」の思考法
山中 伸弥・著 , 益川 敏英・著

定価:872円(税込) 発売日:2011年01月20日

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