72歳、年女を迎えるマリコ。日本大学理事長も4年目となりましたが、まだまだ獅子奮迅の働きです。
毎日日大に通うマリコは理事長として経団連の新年祝賀会に出席し、オープンキャンパスでは全国のキャンパスを駆けめぐる。そんな中、SNSの誹謗中傷やオールドメディアの現状、長嶋茂雄さんの訃報、そして自身の“トイレ問題”に心を痛める日々…。
でも凹んでいたらマリコじゃない。本当にツイているマリコの今が分かる『週刊文春』の人気ご長寿連載エッセイ、『マリコは国宝を観た!!』より、2025年のMLBでナマ大谷翔平のホームランを見た「春の運気」をご紹介します。
春の運気
長い会議を終えて部屋に戻ると、着信の履歴があった。それも何回か。かけ直すと、
「あ、マリコさん! よかったー、話せて」
友人の奥さんの声。
「あのね、今アメリカから電話があって、スポンサー筋から大リーグ開幕戦のチケットが手に入りそうなの。一緒に行かない?」
えー、あの開幕戦を観られるというのか。チケットはプラチナを通り越して、ダイヤモンド級になっているという。
この世で起こっている楽しそうなこと、面白そうなイベントには絶対に参加したい、というのが私のモットーである。しかしこの開幕戦は絶対無理と思っていた。
「それでいつなの?」
「三月十八日、開幕戦の初日」
震える指でスマホのタイムツリーを開く。たいてい夜は会食が入っている私。どうかキャンセル出来そうな相手でありますように……、十八日の夜……と。
なんということだろう。ものすごいVIP。初対面でその時海外からいらっしゃる。ある人から、
「どうしても紹介したい」
ということで、一ヶ月以上前から日にちをすり合わせていたのだ。
「ごめん、行けそうもない……」
がっかりして声も出ない。
「親しい人なら堂々とキャンセルするけど、初めての方だし」
「そうかァ、じゃあ、仕方ないね。すごくお世話になっているマリコさんと一緒に行きたいって、主人は言ってたけど」
そう、すごくお世話している。彼女を今のダンナに紹介したのは私なのだ。彼が、気だてのよい、美しい女性と結婚出来たのは私のおかげなのだ。こうして日頃の徳を積んでいるからこその、さまざまな特典なのである。
がっかりしていると、別のところから、十五日の巨人との練習試合なら何とかなるという連絡があった。
「十五日かァ……」
がっくりと肩を落とす私。その週末は、高知県の日大校友会総会に出席することになっているのだ。その際、日大とコラボしてくださったミレービスケットの社長にご挨拶に行くという予定も組まれている。
「私はMLBとはどうやら縁がないらしい」
あの超プラチナチケットといわれた、二〇一九年のラグビーワールドカップも、三試合見に行くことが出来た。しかし勤め人となった今では、予定がぐっとタイトになっているのである。
そして一年ぶりの高知。まずはミレービスケットの本社に、職員たちとうかがった。タクシーを降りるとあたりには甘いにおいが漂っている。壁には可愛いミレーちゃんの姿が。高知出身のやなせたかしさんがお描きになったものなのだ。
頼まれてミレーちゃんのスカートに、サインをした。ついでにミレーちゃんと同じポーズをとる。大きく腕を振って片足を上げる。日頃のバレエヨガの成果か、なんとか足が上がる。八十代の社長さんも隣で同じポーズをとられた。日大理工学部出身の社長さんである。いかにも高知の方らしく、明るくお茶目ですごく楽しい写真が撮れた。
そして無事に校友会も終わり、次の日はみんなで朝市へ。私は芋けんぴはもちろん、コンニャクとタケノコを買った。そして、夜さっそく煮物にしたら、そのおいしいことといったらない。帰ったら庭の梅も花をつけ始めていた。十五年前、やはり朝市で買ったものだ。
「送料込みで五千円でいいき」
土がついたままちゃんと届き、以来わが家の庭に根を張っている。
いろいろな思い出がある朝市であるが、その日は雨ということもあり人出は今ひとつか。しかしお昼をとるためにひろめ市場に入ったらびっくりだ。ものすごい人出になっている。人がここに流れてきていたのだ。
ひろめ市場は、フードコート。まわりにさまざまな高知の名物の店が並んでいる。ここで食べ物を買い、自由に食べるシステムだ。相席があたり前であるが、まるで空いていない。やっとお店の前に五人座れるテーブルを見つけた。お店の女性が言う。
「飲み物さえ注文してくれれば、食べものは自由にとってきてくれていいですよ」
そのテーブルでは、女性が一人でビールを飲んでいた。
「相席よろしいですか」
「どうぞ、どうぞ」
「あの、私たち大学職員で、ものすごくマジメな人間たちですから安心してください」
そこのお店で、クジラの尾やカツオのタタキなどを頼み、マジメだけどビールで乾杯。帰りしなにお店の女性が私に声をかけてきた。
「あの、お客さん、どっかで見たことあるんやけど」
「そうですかァー」
「そうや、お客さん、○○○(化粧品会社。特に名を秘す)のポスターに出てたよね。そう、○○○のポスターやわ。私、見たワ。憶えとる」
「まァ」
思わず言った。
「いやだわー、北川景子さんと間違えてるんじゃないですかー」
私は冗談を言う時も表情を全く変えないので、とてもコワいそうだ。みんなシーンとなった。マジメな職員の方々、すみません。
が、それにしてもとても気分がいい。私はお釣りを受け取らなかった。間違えられて(?)本当に嬉しい。
そして次の日の月曜日、秘書から、
「十八日か十九日、開幕戦いかがですか、って△△さんからメールありました」
△△さんとはさる企業の方。十九日のタイムツリーを開く……。大丈夫。友人との四人の会食。LINEする。
「あなたとはいつでも会えますが、ナマ大谷を見るのは一生に一度かと」
そして当日、ナマ大谷は私の目の前で、第一号ホームランをかっとばした。佐々木朗希のMLB初ピッチングも見られた。十八日より十九日で本当によかった。この春、運気が上向いてきたと私は思いたい。私って本当にツイてるとも。






