「お葉の医心帖」シリーズで人気の作家・有馬美季子さんが、文春文庫に初登場!『介添えお海 心をこめてお世話します』の主人公は、母親を1人で看取ったばかりのお海・17歳。ある老人の介添え(介護)を頼まれ、迷いながらも「私でも誰かの役に立つことができるかもしれない」と引き受けることに。介添えとして、ゆっくり着実に成長していくお海を、心の底から応援したくなる、待望の新シリーズです。有馬さんに作品にこめた思いをうかがいました。
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――有馬さんは、2016年に『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』でデビューされました。時代小説を書こうと思われたきっかけは、何だったのでしょうか。
有馬 時代小説を読み始めたきっかけは、仕事やプライベートで悩んでいたときに出会った池波正太郎先生でした。以前に読んだ、女性が主人公の短編集『おせん』がとても好みだったので、他も読みたいと思って、あまりにも有名な『鬼平犯科帳』を手に取りました。楽しく読み進めるうちに、3巻目に収録されている「むかしの男」という一編に心を打たれたのです。
奥さんの久栄が活躍する話ですが、二人の過去も書かれていて、鬼平の懐の深さに瞠目しました。時代小説では、これほど粋で男気のある男性、凛として潔い女性を書くことができるのか。鬼平と時代小説に惚れこみました。
それからは引き込まれるようにシリーズ全巻、ほかには『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』『真田太平記』『雲霧仁左衛門』『蝶の戦記』などからエッセイまで、夢中になって読みまくりました。
いつしか時代小説の世界の虜になり、不思議なことに抱いていた悩みも浄化され、自分も書いてみたいと強く思うようになっていました。最初のころは現代小説も書いていたのですが、きっぱり別れを告げ、時代小説でしか描けないような人たちを書きたい、と思ったのです。
――あっという間に、お家に池波文庫が出来たのですね。他にはどんな作家の方の作品を読まれましたか。
有馬 藤沢周平先生、山本周五郎先生、宇江佐真理先生、北原亞以子先生、藤原緋沙子先生、あさのあつこ先生、宮部みゆき先生などの作品を、拝読していました。
心が温もったり勇気づけられたり、切なくなったり胸が揺さぶられて。時代小説への憧れが、ますます募っていきました。
若い頃は、杉浦日向子さんのエッセイやコミックをよく読んでいたので、江戸時代に惹かれる傾向はあったのでしょうね。
〈プロフィール〉
ありまみきこ 2016年、『縄のれん福寿』で時代小説デビュー。21年、「はないちもんめ」「はたご雪月花」のシリーズで、第10回日本歴史時代作家協会賞の文庫シリーズ賞を受賞。ほかに「お葉の医心帖」「小鍋屋よろづ公事控」「花蝶屋の三人娘」シリーズなど。
母を介護してみて分かったこと
――デビュー以来、数々の人気シリーズを発表されてきましたが、有馬さんが描く女性主人公、ひたむきでたくましい人が多いように思います。そういった女性に憧れる気持ちが、強いのでしょうか。
有馬 私が描く女性って、そのようなイメージなのですね! どちらかというと、お人好しの女性が多いように思っておりました。自分に弱い面がありますので、逞しくて前向きな女性に憧れる気持ちはありますね。マイナスなことが起きても、それをバネにして突き進むというのが私の理想なので、キャラクター造形にも表われているのかもしれません。
キャラクターを設定すると、ヒロインになりきって書いてます(笑)。時代小説だと、若い主人公でもどこか落ち着いているところがあるし、明らかに現代の若者とは違うので、かえって書きやすいですね。
――今回の主人公・お海は介添えという設定です。介添えする側とされる側、それぞれに思惑やためらいがありながらも、徐々に距離が近づいていくところが、とても読みごたえがありました。非常に現代的なテーマでもありますが、有馬さんご自身は介護の経験があるのですか。
有馬 私自身、母の介護の経験があります。母は、くも膜下出血で倒れて、一時は回復したのですが、数年後に再び具合が悪くなってしまい、最後は寝たきりでした。作品に書いた、お海が介添え相手にしているようなことは、その時にすべて経験しました。
第四章で、お海が、寝たきりになった大殿の次男に言うセリフで書いた、「おっ母さんはきっと、赤子に返ってしまったんだな、ならば今度は私がおっ母さんになって、面倒を見てあげたいと思ったんです。役割が交替しただけなんだ、って」というのは、私がその時に実感したことです。若い頃はいろいろ煩かった母が、歳を取り、無邪気に私に甘えてくる姿はとても可愛かった――自分が思ったことを、そのまま書きました。
ヘルパーさんに手伝ってもらうこともありましたが、熱心に務めてくださって、本当にありがたかったです。この作品には、ヘルパーさんたちへの感謝とリスペクトも込めています。
介添えする相手に合わせた工夫
――書いていくなかで、特に難しかったところはありますか。
有馬 難しかったのは、やはりリハビリの工夫でしょうか。介添えする相手に合わせて、工夫をしていく。たとえば足をひどく痛めてしまった人に、どうすれば楽しんでリハビリしてもらえるのか。頭の働きが鈍くなっている人に、どうすれば楽しんで頭を使ってもらえるのか。
なかなか難しいテーマでしたが、お海の立場になって、特別な資格や医学の知識がなくてもできるような、かつ相手と楽しみながら取り組めるリハビリの方法を、調べたり考えたりしてみました。
第一章では、お海が鳳仙花の爪紅(つまべに)を、介添えしている大内儀・サチにしてあげて喜んでもらいますが、女性はいくつになっても、身だしなみを整えると嬉しいですよね。
――第二章のサイコロ飛ばし、第三章の草木染めや野菜染め……次は何だろう、と読むほうもわくわくしました。有馬さんの作品には、美味しそうなお料理がたくさん登場しますが、今回お海が作るのは、主に病人食ですね。特に工夫をされたところはありますか。
有馬 お海が、介添えする相手の病状に合わせて、それに効果がある食べ物を使った料理を考えるということですね。第一章では、物忘れがひどくなってしまった大内儀が相手ですので、物忘れに効果のある蕎麦粉を使った料理を考えたり。母乳の出が悪い女性に、薬草を使った料理などを考えるのは、楽しかったです。
病人食の場合は、出汁が決め手になるでしょうね。私もレシピを見ながら、実際に作ってみたものがありますが、蕎麦掻きは手軽に作れるのでおススメです。逆に普段自分が作っているものを、小説に登場させることもあります。
――「介添えお海」シリーズを通して、読者の方へのメッセージがあればお願いします。
有馬 介護は、誰でも、いつか必ず直面する問題でしょう。介護をする側もされる側も、どうしても辛くなることってあると思うのです。でも、どうせなら、少しの工夫で、楽しみながら笑顔で支え合っていきたいですよね。楽しむことが、心と身体によい影響を及ぼすこともあるでしょうから。そのような思いを込めて、書かせていただきました。
介護の結果がたとえ“別れ”になったとしても、介護ができたこと、介護をしてもらったこと、両者の思いはずっと残り続けるような気がします。
――最後に今後のご執筆の予定を教えていただけますか。
有馬 年内にほかにも新しいシリーズがいくつか始まります。読者の方々のお心に寄り添える作品を書いていけますよう、努めて参りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
介添えとして一回り成長したお海ちゃんとも、また会えるといいですね。
――楽しみにしています! ありがとうございました。








