京のよさ・怖さ
――そういう文体の中で、ゆずの京ことばが光っています。心和みました。ゆずのキャラクターは、女性から見ても、愛らしい魅力的な女性です。
山本 前向きで明るく、そして、ちょっとあつかましい……(笑)、そんなキャラクターになればと思いました。
――京の名代の茶道具屋の愛娘らしいおっとりさ、明るさ、ひたむきさがあります。そんな京女のよさが描かれていますが、いわゆる“ぶぶ漬け”的な京都の怖さもでていますね。
山本 近所の旅籠の女将が、駆け落ちしてきたゆずに嫁入り道具のお披露目を早くしろと言ったり、ゆずの母が江戸から京都に嫁いで早々に子供ができたら、早く子供ができる嫁は悪い嫁だといじめられた話は、京都らしいといったらいいのでしょうか(笑)。実際に、怖い話もいろいろ耳にしますよ。結婚前に旦那になる人の実家に挨拶にいったら、「お風呂沸かしといたさかい、入りよし」って言われたとか(笑)。東京の呉服屋さんから、京都の呉服問屋にお嫁に来て、いじめられた話とか。
――でも、ゆずがただのお嬢様でなく、そんな意地悪な女将にはきっちり言い返してくれるところは、胸がすく思いがしました。一方、真之介は人一倍の努力と度胸で一番になるという、頼もしい旦那様です。目利きとしてはゆずのほうが上のようですが(笑)。
山本 私が出会った道具屋さんたちは、元気で、変わった方々が多かった。実際、奥さんのほうが目利きな道具屋夫婦もいます。本当にさまざまなタイプの人がいて、弘法さん、天神さんの露店商がいると思えば、世界中駆け回って商売をしている一流の美術商もいる。脱サラの人、コレクター、初(うぶ)だし屋、市から市へと道具をまわすはた師、元やくざ、右翼、俳優、ゲイ……、みんな道具屋です。私がアルバイトしていたせり市場は、箪笥や仏壇など、いわゆる“荒道具(あらどうぐ)”という大きいものも扱っていて、石灯籠までせりにかけるんです。古美術品専門ではないところが、かえって面白かった。
――だからこそ、様々な人がいるということですか?
山本 そうなんです。一流の古美術商ばかりが集まるオークションは別にあるんですが、なんでも扱っているほうが、掘り出しものがでてくる可能性がある。茶箪笥の中から、宗達の下絵に光悦が和歌を書いた古色紙が三十六枚もでてきて、四千二百万円で売れたことが実際にありました。茶箪笥は捨て値で買った品だったそうです。そんなことがあるから、一流の美術商でも見過ごしにできない。前日の下見にかならず店員が来て、とびきりよい品物があったら主人がせりに出てくる。
――まさにこの小説で描かれているようなことが本当にあるんですね。
山本 象徴的なエピソードですが、ある老舗書画屋の主人がちょっと怪しい歌麿の肉筆画をせり落としたんです。「それ、大丈夫ですか」と若い道具屋が聞いたら、「大丈夫です。うちが売ったら本物です」と言ったとか(笑)。書画骨董というのはそういう世界なんですね。
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