──本作は直木賞候補となった『千両花嫁』に続く「とびきり屋見立て帖」シリーズ第二弾となります。このシリーズは幕末の京都を舞台に、駆け落ちして夫婦となった真之介とゆずが道具屋「とびきり屋」を営みながら、少しずつ成長してゆく姿を描いて人気を博しています。今回二作目ということで、執筆する際に意識されたことはありましたか。
山本 前作の『千両花嫁』は、京都の町に暮す人々と、そこにやってきた志士たちや新撰組の連中が出会ったときの葛藤を描くことがテーマでした。だから高杉晋作や勝海舟、坂本龍馬や近藤勇、土方歳三など、実在の人物が沢山出てきます。今回はテーマとして「道具屋さんの生き方と商売」について書いてみたいと思ったので、実在の人物を登場させることは少し控えました。
──今回も龍馬や新撰組の芹沢鴨などの実在の人物は登場しますが、確かに沢山は登場しませんね。
山本 はい。実在の人物を数多く登場させると、どうしても物語を構成する軸が増えて、話が複雑なものになってしまう。今回は軸を整理して、ひとつひとつの物語をなるたけシンプルなものにしようと思いました。
──本作には六篇の短篇が収録されていますが、一作品につき一つの「道具」が重要な役割を果していますね。例えば「ええもんひとつ」では仁清(にんせい)の香炉、「さきのお礼」では色つきの蛍手(ほたるで)の茶碗、「お金のにおい」では虎の絵が描かれた李朝の徳利と――。道具一点から広がる、また収斂(しゅうれん)してゆく物語は、それぞれに異なる読み応えがあると思います。
山本 毎回の物語で真之介とゆずの二人にどんな「道具」を絡ませるか、一巻目では若干漠然としていたのですが、今回はそれぞれ「これ一点」と決めて書きました。物語の中で使う一点の道具が決まると、話の焦点が決めやすくなります。道具の扱い方は一巻目と比べて、かなり意識的になっていると思いますね。