二〇二四年四月から翌二〇二五年三月までの一年間、テレビ東京系の『ブレイクスルー』という番組のMCを務めた。

 同番組は、スタートアップ企業を中心に、未知の領域に挑み、開拓者として歩んでいるリーダーにインタビューする企画だった。

 その『ブレイクスルー』で、私がMCを務める最後の放送回として取り上げたのが、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS:International Institute for Integrative Sleep Medicine)機構長・教授の柳沢正史さんだった。

 柳沢さんは、睡眠に関するスタートアップベンチャー企業S’UIMIN(スイミン)を二〇一七年に起業。現在も取締役CSO会長を務めている。

 番組の収録に合わせて、S’UIMINが筑波大学と共同開発した自宅で測れる睡眠計測サービスを事前に体験してほしいと言われた。

 InSomnograf(インソムノグラフ)と呼ばれる睡眠計測機で、睡眠時の脳波を測定してAIで解析し、専門家の総合評価や改善アドバイスを加えて利用者にレポートするサービスだ。

 話を伺う以上、体験は重要だ。私は二夜連続でインソムノグラフを装着して眠った。私の睡眠データは機器を通じて送られた。

 数日後の二〇二五年二月六日、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構を訪問。柳沢さんから同機構で取り組んでいる研究の内容と、多くの人が「勘違いしている」睡眠について、興味深い話を聞いた。

 私のインソムノグラフの結果について、柳沢さん自らが分析結果を説明してくれた。

「真山さんの睡眠は、典型的な睡眠時無呼吸症候群として教科書に載せたいぐらい深刻な状態ですよ」

 体の丈夫さが自慢だった私にとって、衝撃的な「宣告」だった。

 このシーンの撮影前に、「たいていの日本人は、睡眠について知らないことが多い。誤解や思い込みも多い」と話す柳沢さんに、同意していた私自身が、自分の睡眠について分かっていなかった。

「ベッドに入ったら二、三分で寝られますし、起きた時に寝足りないという自覚もない。年齢を重ねて、眠りが浅くなったのかとは思っていましたが」

 思わずそう反論すると、柳沢さんは、にっこり笑って「そういう意味でも、真山さんは典型的な睡眠障害ですね」と返した。

 八〇歳を超えても、小説を書き続けたいと思っている私としては、このまま放置するわけにはいかない。

 収録終了後すぐに、柳沢さんに「睡眠治療の専門家を紹介してほしい」と頼んだ。

 それから、既に一年を超えた。睡眠時に鼻呼吸するための機器CPAP(シーパップ)を装着し、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apner Syndrome)の改善に努めている。

 治療してくれている医師によると、睡眠時無呼吸症候群の最大の原因は、肥満なのだという。

 診断を受けて初めて知ったのだが、舌も肥満するらしい。太った舌のせいで気道が塞がれ、無呼吸を起こす。酷いいびきはそのせいだ。

 従って睡眠時無呼吸症候群を根本的に改善するには、痩せるしかないと断言された。そこで、痩せるための努力も始めた。

 最近ではCPAPのお陰で、装着時は無呼吸がほぼなくなった(尤も寝ていると時々苦しくなって、途中で外している日もある)。また、明らかに熟睡している感覚が生まれ、表情が豊かになったとも言われる。治療を始めてよかったと切に思う。

 私自身の反省を踏まえて言いたい。我々はもっと睡眠についての理解、知見を深めるべきだ。

 巷には、睡眠関連グッズが溢れている。

 枕などの寝具、パジャマ、入浴剤等々。その市場規模は一兆円に達するという調査結果がある。一方で、深刻な睡眠不足で、日本の経済損失は一五兆円という試算もある。

 だとすれば、睡眠の世界的権威である柳沢さんから直接、睡眠の「本当」をもっとしっかりと聞いて、多くの人に伝えたいと強く思った。

 同時に、『ブレイクスルー』で知り合い、その後、会食などを通じて、柳沢正史という人物に、とても魅力を感じた。

 常に笑顔を忘れない。一方で、医学界や大学などを取り巻く環境に対しては、臆することなく厳しい発言を厭わない。これだけ自分たちが睡眠について、様々な研究成果を上げているのに、それが、なぜ真っ直ぐに届かないのかという強い疑問を感じてもいる。

 睡眠に対する誤解で、多くの若者や子どもたちが生きづらさを感じている。若者や子どもは、国の未来だ。この状況を見過ごすわけにはいかない。

 だから、超多忙な研究者であり、指導者でもありながら、テレビでも、雑誌でも、声が掛かれば取材を受け、睡眠に対する誤解を解くために精力的に飛び回る。

 その魅力を、情熱を、是非多くの人に知ってほしい。


「プロローグ」より