──神田憂は憂鬱な割に色々行動します。
金原 彼女はとてもアクティブです。人間って、目的がなければないほど、何かをしてしまうものだと思うんです。私もせっぱ詰まっていた原稿が締め切りを過ぎてやっと終わって、とりあえず追われている仕事がなくなると、無意味な行動に出る事があります。全然欲しくないものを衝動買いしてしまったり、延々とテトリスなどのパズルゲームをやったり。でもそれは超無駄な時間ではあるんですが、何もしないでぼーっとしてはいられないんです。主人公が精神科に行きたい行きたいと言いながら全く行かないのは、むしろ必要なのは目的設定であって、目的自体ではないようにも見えます。
──近代文学で描かれた目的意識を持って行動する人間ではなく、流されるというか、自分の意思とは無関係のところで行動しているわけですね。その方が人間らしいというか。
金原 意識に縛られている人間の行動は限られていますが、現実を見てみると個人の行動は全く予測がつかない事がありますよね。ドラマで二人の人物の会話がものすごく噛(か)みあってる事がありますが、実際の会話はもっと生々しくて、噛んだり言いよどんだりもするし、真剣に人と話をしている途中で何となく話すのが嫌になって帰っちゃったりとか、そういう現実が予測のつかないかたちで転がっていく様子を書きたかったんです。
──確かにこの小説の中の会話は、断絶していますね。そこが読んでいておかしいんですが。
金原 結局、分かり合おうとして会話しているわけではないんです。キャッチボールではなく、自分がぶつけているだけで、相手の球は受け取らないし、受け取る気もないし、受け取らなければならないとも思っていない。会話する事で理解し合うよりも、会話して人ってこんなに違うものなんだと分かる感覚の方がリアルなんじゃないでしょうか。すれ違いのおかしさを小説に書くのは難しいですが、それを会話を通して表せたらと。
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