書評

五百年に一度の「ことば」の大転換期に

文: 藤原 智美 (作家)

『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』 (藤原智美 著)

 ネットは私たちの思考や心にもずかずかと入りこむが、それを自覚することは案外むずかしい。しかし、メールのことばでひどく感情を害されたり、SNS上の失敗が現実に影響を及ぼしたりしたという経験は、私だけでなく、だれにも少なからずあるはずだ。もう充分に私たちはネット依存者だといえる。

 私はこの本で、ネット上を流れる文字、音声、画像、映像をまとめて「ネットことば」とひとくくりにした。

「ネットことば」にたいして、旧来の紙とインクによる「書きことば」は、圧倒的な劣勢にたっている。

 なぜなら文を読む、文を書くという行為には忍耐と時間が必要であり、本質的にそれは孤独なものだからだ。クリック1つで他者とつながったりはできないし、読むことも書くことも、自分の力だけが頼りだ。紙に書かれた文の場合、デジタルデータのように、他人のことばをコピー&ペーストして安直に作成し、即座に画面に読みこむこともできない。書きことばは不便でのろまで、おまけに労力が必要ときている。これでは勝ち目はない。

 この本を書いたのは、まさに書くということを仕事としてきた者として、居場所を失うかもしれないという不安と焦燥からだった。やがてネットことばが書きことばを駆逐してしまうとすると、私はどうなるのか! 「本はなくならない」という人がいる。しかしよく聞いてみると「あんなにいいものだから、なくなるはずはない」というような、根拠のない願望にすぎなかったりする。私はそんなノーテンキな意見を耳にすると苛立つばかりだった。これから書きことばはどうなっていくのか。私は不安にかられるまま本を読んで考えるしかなかった。しかしヒントは、意外にもイタリアのベネツィアにあった……。

 そして本書を書き終わって、私にはこれから私たちが相対するものの正体が、おぼろげながら見えてきた気がする。グーテンベルクの活版印刷発明以来、500年に1度の大転換期を迎えている私たちには、ことばと社会の激変への覚悟が必要なのだ。

ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ
藤原智美・著

定価:1,100円+税 発売日:2014年01月29日

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