小林 黒澤明関係者全員。志村喬も出てきました。この“High and Low”は、ヴェネチア映画祭へ行ったけれども、何の賞にも引っ掛からなかった。あの警察はアメリカの警察の真似だと言われた。要するに、日本人はチョンマゲ結ってると思ってるんですよ、彼らは。
芝山 今だったら、反応は絶対に違いますよね。スコセッシがリメイクしたがっていたし。『赤ひげ』も、イーストウッドを始め意外に外国での評価が高いですね。ただ、『天国と地獄』を黒澤映画の後期と考えないと、後がちょっと淋しい。もちろん編年体的にいいますと、六〇年代ですから中期になるんですが。『どですかでん』以降は世界のクロサワになって、最後のほうはプライベート・ムービーの世界に入っていきます。仮にベストスリーというのを考えると、微妙なんですよ。もちろん『七人の侍』は入る。『七人の侍』『天国と地獄』。もう一本を『野良犬』にするか、『酔いどれ天使』にするか、いつも迷うんです。
小林 今観ると、『酔いどれ天使』より『野良犬』のほうがいいですね。それと、『生きる』がある。
芝山 『野良犬』では、いろんな空間が躍動していますものね。『酔いどれ天使』は室内劇でもおかしくないところがあって。
小林 『酔いどれ天使』が出たときは、日本の映画界は、深刻なころのビリー・ワイルダーの時代なんですよ。
芝山 アカデミー賞をとった『失われた週末』と『酔いどれ天使』を比べたら、『酔いどれ天使』のほうがずっと濃いと思いますね。
小林 黒澤明の全体像を考えると、非常に難しいんですね。黒澤明は、中期なんですよ。
芝山 とんがってますでしょう。しかも旺盛で、映画アニマルの資質が全開している。
小林 ところが『姿三四郎』から〈傑作〉ですからね。
芝山 『姿三四郎』から『天国と地獄』まで二十年ですか。
小林 僕は、そのころ一人の監督でずうっと二十年、でこぼこはあったとはいえ、楽しませてもらった。二十年楽しませた人がほかにいるかと思いましたね。
芝山 確かに稀有ですよね。けっして短くはない。
小林 ぼくが十代のころ、「映画春秋」とか、「キネマ旬報」以外の研究誌というのが、黒澤明を見くだすような座談会とか対談とかを載せていたんです。
芝山 確かに、僕が若かったときのことを思い出しても、ある時期、黒澤明のことを妙に口ぎたなく言う傾向がありましたね。
小林 六〇年代にもありました。それから今度はジョージ・ルーカスたちが褒めてから、急に神格化する。
芝山 そうなんです。海外につられて日本での評価が上がった。
小林 あれがすごく嫌ですね。
-
『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。