──そうお聞きすると、田口さんが取り上げるテーマは社会では腐敗臭を放って嫌われ避けられているものが多いと感じます。できるなら見ないでおきたいことですね。
松岡 そうそう、嗅(か)ぎたくなっちゃうんですよ。臭ってくると、それが何なのか確認したくなるんです。書きたいというよりも確認作業ですね。蓋をされているとその蓋を開けてみたくなる。
──この小説集全体では、死が重要なテーマになっています。
松岡 「死」についてはこれで、もう十分に向き合ったかなと思います。ずいぶんと題材にして書いてきたアル中の父も昨年亡くなりましたし、もういいかなというのが、今はありますね。
──そうすると、『蝿男』は死のテーマの集大成ですね。次は何を取り上げられる予定ですか。
松岡 生きることですね。この十年、兄の死から始まって、死に対する答え探しをしてきたように思います。でも、人がどう生きてきたかということは、ちっとも書いていなかったと思う。ふつうはそれを書くのが小説ですよね。私は逆だったな。
──田口さんはご自身の読者層をどのように考えていますか。
松岡 私の読者は、やはりなにか問題を抱えている人ではないでしょうか。生き辛さを感じている人、「臭(くさ)いもの」の臭(にお)いを嗅ぎたい人、蓋を開けないではいられない人でしょう。
──社会問題に関心のない人、のほほんと暮らしている人ではないですね。
松岡 というか、平穏に暮らしている人には私の小説は必要ないでしょう。日々暮らしていても、たとえば朝の通勤途中で募金しなかったことを一日悔やんでいるような人。自分がしたことで誰かが助かるという実感もないけれど、何もしない自分にも罪悪感を持っている、世界へのコミットの仕方がわからずに悩んでいる生真面目な人が読者に多い気がします。
──今回の本はいきなり大問題というのではなく、それらとうまく距離をおいた、入りやすい田口文学の「入門書」ではないでしょうか。
松岡 蝿とか、すっぽんとか、蛙とか、ちょっと爬虫類(はちゅうるい)系の小説ですよね。身体で感じたことを大事にして書いています。ざらっとした感覚を楽しんでいただけたらと思います。
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