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十年の集大成、異色の短篇集

十年の集大成、異色の短篇集

「本の話」編集部

『蝿男』 (田口ランディ 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

──ということは、携帯電話はまだ過渡期なのですね。

松岡  まだ最終段階にいっていないし、ネットワークはさらに過激に先にいくのでしょう。これからどうなっていくのかということを書くのが今後の課題ですね。

   中央アジア、シベリア西南部のアルタイ共和国に行ったときに、馬に乗って生活している人たちが、携帯を使いこなしているのを見ました。人間は出来てしまった道具はフレキシブルに使いこなすものですね。原子力を危ないと言いながらも使っているじゃないですか。ところが、あるところまで行き着くと、相転位する。そこがおもしろいと思います。

──「すっぽん」「蝿男」はダークですが、コミカルな読み口です。こういう短篇をお書きになるのも好きなのですか。

松岡  安部公房さんの短篇が好きなんです。男の子がぺろんと裏返って花になってしまうという作品がありますでしょう。そういうのがたまりません。

──まさにグロテスクとユーモアの世界、SF的発想ですね。

松岡  中学生の頃、SFが大好きでした。レイ・ブラッドベリとかフレドリック・ブラウンの大ファンでした。人間を超えた超越的な視点、動植物的な視線でものを見ているところに魅せられました。かというと、人間主義の王道のようなヘルマン・ヘッセも大好きだった。ようするになんでもいいんですね。いろんなものが好きだったんです。『赤毛のアン』も、『巌窟王』も、『デミアン』も。

──「海猫の庭」、これは打って変わってターミナル・ケアが題材ですね。死期が近づくにつれ、親子関係を見つめなおす感じがよく出ていると思います。    そして「鍵穴」は他の作品とは違う幼児虐待を扱っています。

松岡  幼児虐待は書きたいテーマなんですけど、最悪のことですから、どうしてもシリアスになってしまう。ですから、ラストに救いをという気持ちで書きました。虐待されて死んだ子供であっても、不幸なだけではないと思いたい、そういう気持ちはありますね。子供の視点に立ったら違う見方があるんじゃないか。いじめられても子供はお母さんが大好きなんですよ。

──そこがこの小説の悲しいところですね。

松岡  子供の目で見ないとね。母親を責めるだけでは、よけいに切ないばかりだし。

「臭(くさ)いもの」の蓋(ふた)を開けてみたくなる

 ──この小説集に付けられたキャッチコピー「腐純愛小説」についてお聞かせください。

松岡  デビュー作『コンセント』は、私の兄の死をテーマにしています。実際に兄が腐乱死体で見つかったときに私が清掃に行ったんですが、アパートから五百メートルくらい離れたところからでも腐乱臭がしていたんです。そのときは頭が痛くなるくらいすごい臭(にお)いだったんですが、しばらくしてからその臭いが、なぜか好きになってしまったんです。今でも町を歩いていて、似た臭いがすると懐かしい感じがするんです。

──今回の小説集も臭いに関する記述がじつに多いですね。今回の小説集も臭いに関する記述がじつに多いですね。

松岡  臭い、特にくさーいものが、好きですね。ものすごくリアルにいろんなことを想起できるから。

蝿男
田口 ランディ・著

定価:1500円(税込)

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