──このところ田口ランディさんは本を立て続けに出されていますが、新刊『蝿男』は、他のものと少し系統が違うと思います。かなりポップでライトな感じを受けます。どのような意識で書かれたものでしょうか。
松岡 昨年出版した長篇小説、そして二冊のエッセイ、ノンフィクションのテーマは、がん治療や生死の問題、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスと彼女に関わる死生観を扱っていました。やや固い路線の作品ばかりだったので、少し方向性の異なったものを出したいという気持ちがありました。こういう作品も書くんだよというのを示したかったのですね。もともと私は、社会問題を論じるタイプの作家ではないんです。確かに、著書で扱っている題材は社会問題が多いし、対談集でもさまざまな分野の専門家の方たちと生命観について議論しているので、いわゆるアカデミックな方向に行きたいのかと思っている読者もいるかもしれません。犯罪や生死というテーマが好きなのは確かです。でも、それを私が書く意味というのは、研究したり分析したり、そのテーマを深めていったりということではないと思うんですね。深刻な問題を学者の方とは違う方法で読者に提示するのが自分の仕事だと思っています。
ノンフィクションの場合だと、テーマによっては学術的な部分も必要になりますが、小説なら題材をどういう形でも展開できる自由さがある。小説でしかできないことがあると思います。難しいテーマでも、読者の側にすり寄って描けるんですよ。
──田口さんは小説家としては、ノンフィクションやエッセイの著作が異例に多いと思います。
松岡 はい。小説とノンフィクションは同じウエイトで書いています。
──どのように書き分けているのですか。
松岡 どちらも好きです。あるテーマに向き合うとき、取材対象にはノンフィクションの方が近寄りやすいんです。だけど、ノンフィクションを書いてしまうと、その先をフィクションで書きたくなる。物語にしないとうまく伝えられないところまで行き着くと、小説を書き始めます。
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