ウランからトリウムへ
――燃料にウランではなく、トリウムを使う理由は?
古川 トリウムというのは、自然界に存在する元素の中でウランに次いで重く、中性子を吸収すると、ウラン同様核分裂の連鎖反応が起こせるようになります。希土類(きどるい)元素と一緒に産出するので、その利用は産業経済上極めて好都合です。
よく知られているように、ウランの核分裂反応からプルトニウムが生まれます。これは核兵器の材料になるきわめて危険な放射性物質ですが、現状では世界中がその処分に困っています。原発が稼動すればするだけ、プルトニウムの山ができるのですからね。これに対しトリウムは、核分裂連鎖反応を起こしてもプルトニウムをほとんど生まない。それどころか、トリウム熔融塩炉でならプルトニウムも炉内で有効に燃やせます。プルトニウムの消滅に一役買えるのです。
ウランは世界に偏在していて、そのことが寡占国による政治支配を生んでいますが、トリウムは世界中にある上に、埋蔵量も充分です。燃料をウランからトリウムに変えることは、核兵器の脅威から人類を救うことにもなるのです。
――では、小型にするというメリットは?
古川 今、開発を提案している熔融塩炉を、我々研究グループは「FUJI(不二)」と呼んでいますが、これは液体燃料であることのメリットが生かせ、大変発電効率がいい。小型にするのは、これを需要地の近くに設置したいからです。
今、原発は僻地に大型施設が集中しています。これはみんなの中にある「安全性への危惧」が生んだ、苦肉の立地・大型集中化といえるでしょうが、その結果、需要地への何百キロにもわたる送電ロスを生み、電気料金を高くしています。
需要地に発電所があれば、ロスは最小にできます。安全で高効率で小型であれば、都市や工業地域の近郊にも置けるのです。
世界中に小型炉を
――でも、これからはあまり電気を使わないような生活にすべきなのではないですか?
古川 もちろん省エネは必要です。エネルギーは大切に使い、これまでのライフスタイルも、しっかり見直すべきでしょう。でも、この春、東京電力が計画停電を実施しただけでも、世の中は大混乱でした。現代社会では、エネルギーなしには暮らせません。
環境の悪化を防ぐという点で、化石燃料はこれ以上燃やせません。太陽光や風力などの自然エネルギーは、技術的に実用化ははるか先です。自然エネルギーが生かせるようになるまで、なんとか原子力でつながなければならない。
それに今後、世界中でエネルギー需要が急増すると予想されています。現に中国やインドでは、エネルギー消費量が幾何級数的に増えている。間違いなく今後、アジアやアフリカなどの発展途上国ではエネルギー不足、そして貧困が深刻なものになるでしょう。安全、高効率、小型の原発なら、そうした世界の需要に充分に応じられるのです。
この熔融塩炉の研究においては、アメリカのオークリッジ国立研究所を中心とした基礎研究開発が、驚くほどわずかな資金で整えられました。原理が単純で優れているからです。我々はそれをさらに改良して、FUJI構想をまとめました。
しかし残念ながら、プルトニウムを生まず軍事的利用に不向きな性質をもつトリウムは、核冷戦時代に歓迎されなかった。軍事利用に適するプルトニウムを増殖する、高速増殖炉の開発を推進したい政治勢力の動きが強く、妨害されました。
しかし、既存の原発が行きづまっている今、「世界を救える原発」として、再び注目を集めつつあります。我々のもとにも、米・仏・露・チェコ・トルコ・ベネズエラ・オーストラリア等々、世界のエネルギー関係者から、協力しよう、一緒に実験炉を造ろう、といった呼びかけがきています。
みなさん、日本でも、今こそ原発を一新しましょう。
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