しかし、終戦とともに需要は無くなり、事業は継続不能となった。そこで、次の100年を生き続けるため、当時MIT(マサチューセッツ工科大学)で学んだデュポン家の親族4人が一致団結して危機克服を主導し、化学会社への大転換を図った。あわせてGMを買収し、スローン副社長を派遣した。その後、独禁法上の理由で政府から売却を迫られるまでの37年間、子会社としてGMの成長を助けた。デュポン自身はナイロンをはじめとする多くの製品開発を進め、世界一の化学会社となった。
しかし、今や次の100年を目指して、「低炭素科学企業」の方向に大転換することを決め、子会社の石油会社コノコを売却した。今も大変革の最中である。しかしその「組織文化」は一貫して揺らいでいない。常に会社は「株主」、「従業員」、「顧客」、「社会」の4つの「ステークホルダー」のものであって、米国で一般化した「株主」のものという考え方に反対している。又、社内でも「法の遵守と倫理」、「人の公平な扱い」など4つの「企業信条」を200年間一貫して徹底し続けている。
トヨタも誕生72年で、これから多くの「変革」や「危機」を乗り越えることになるだろう。私はトヨタが世界一に近づいた頃から、従来の文化が少々変わり始めたように感じたが、今回の世界不況を乗り越える上で、「組織文化」の原点回帰が実現すると信じている。改めて、名実ともに「真の国際企業」に再度踏み出すと期待している。戦略的には、「低炭素社会」の実現を目指し、「ハイブリッド車」、「電気自動車」を始めとして、次々と新製品開発に更なる焦点をあてるものと想定している。その結果、21世紀後半には終わりを告げる「石油の世紀」から、新たな「電気の世紀」に向けて世界を主導するものと信じている。
先日もキャタピラー本社主要役員との会食中「GMの今後の対応がどうなるか。キャタピラーと比較するとどう違うか」が論議になった時、先方から「キャタピラーはGMとは違い、トヨタと組織文化が似ている」というので、「具体的にはどういう意味なのか」と尋ねると、「『現場の自由』、『創造性の尊重』、『規律』、『責任』の4つが一体になって結びついていることだ」との答えが返ってきた。私もその考え方に納得すると共に、デュポン、キャタピラー等、私の関与してきた世界的企業とトヨタの一致点を再確認して嬉しくなった。
このように、佐藤さんから教わった「企業力」、「ストラテジー」、「リーダーシップ」、「組織文化」の意味は、今も私の心の底に焼き付いている。『トヨタ・ストラテジー――危機の経営』が読者の方々に同じような強い感動を与え、企業人に大変有益なアドバイスを「ノンフィクション」の形で提供してくれるのは大変嬉しいことだと思っている。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。