浜田 満(はまだ みつる)
1975年、奈良県生まれ。(株)Amazing Sports Lab Japan代表取締役。関西外国語大学スペイン語学科卒業。自身も高校時代までサッカーに打ち込む。現在はスペイン、イタリア、英語の三か国語を操り、FCバルセロナ、ACミラン、アーセナル、ユベントスなど欧州ビッグクラブのライセンスビジネスやマーケティングに携わる。久保建英君のマネジメント業務の他、サッカーサービス社と指導者クリニックを行うなど、ここ数年は選手育成業務に力を入れる。著書に『サッカービジネスほど素敵な仕事はない』(出版芸術社)。
建英君がバルサに入団するきっかけとなったのが、日本で開催されるバルサキャンプへの参加だった。キャンプを主催し、現在も建英君のマネジメントを行っている浜田 満さんに、彼の何が凄いのかを分析してもらった。
――バルサキャンプで初めて建英君を見た時の印象は、いかがでしたか?
浜田 やっぱり質が違っていましたよ。バルサコーチが「凄いやつがいる」と、僕を呼びに来たぐらいですから(笑)。
でも、むしろ最近の方が印象が強い。どんどん凄さを増しているという感覚です。
――凄さ、と言いますと?
浜田 サッカーの場合、試合の間ずっと自分の得意なプレーや効果的なプレーをし続けることは、もちろん不可能です。チームにとってプラスに働くプレーの回数をいかに増やしていけるか、が良い選手になれる近道なんですね。建英はまだまだ子どもですし、向上すべき点もありますが、この1年で無駄なプレーが減り、チームにとって効果的なプレーをする回数が増えました。目で見て、明らかにわかりますよ。
何よりも、つくづく「よくバルサのカンテラ(下部組織)に入ったな」ということ。本当に運も良かったですよね。建英が入った直後、僕は今後建英に続く子が出てくるだろう、と考えていた。でも、最近は「そう簡単に二度目は実現しないかもしれない」と思っています。
バルサのカンテラに外国人が入るには、育成部門の責任者全員、加わるチームのカテゴリーのコーチなどを含めて全員がOKを出さないとだめなのです。これはめったに起こることではありません。
というのも、バルサでは外国人と地元出身者の扱いが、はっきりと分けられているからです。外国人を獲得するということはバルサにとってもの凄くリスクが高いのです。当然ですよね。小学生が家族と一緒にスペインに移住するわけですから。そのため、ある程度将来が約束されていなければ、バルサが入団を認めることはないのです。最終的なテストはカンテラでの練習参加ですが、その時に地元出身の選手たちと同じレベルでは入団できない。2ランクは上でなければ難しいと思います。
――浜田さんは建英君が入団するまで、常に挑戦の場に付き添っていたわけですが、最初から「行ける」という確信がありましたか?
浜田 正直、入れるとは思っていませんでした。メッシですら13歳からの入団ですよ。バルサキャンプで建英がMVPになり、特典としてベルギーでの大会に参加した時も、まだ入れるとは思っていませんでした。そこで再びMVPになったわけですが、それでもテストが受けられる保証はありません。カンテラでのテストが決まった時、初めて「これで行けるんじゃないか」と思いました。それでも、「13歳になるまで、毎年バルセロナに来てプレーを見せてね」と言われるだろうと予想していたのです。
ですから、テストの2週目だったかに、バルサ育成部門の責任者が、「タケフサ、君は今日からFCバルセロナの選手だ」と告げた時、横にいて通訳をした僕も鳥肌が立ちましたよ。
――何が評価されたのでしょう。
浜田 バルサが技術以外の面で評価するのは、フィジカルよりも判断力、理解力などで、サッカーというスポーツを根本的に理解したプレーができるかどうか、です。日本や欧州の他のどのチームとも、選手を見るポイントが違います。
たとえば、セスクは体も大きくないし、足元のボールさばきもたいしてうまくない、スピードも遅い。他の欧州クラブや日本だったらトップチームに上がれないどころか、下部組織にも入れていなかったかもしれません。
でも、ボールを持っていない時の動きが絶妙で、スペースを見つけるのが格段にうまく、そのスペースを使うタイミングも素晴らしいです。バルサが評価するのは、このようないわゆる“バルサの特徴”を持っている選手で、建英もまさにその一人だと思います。
僕自身が建英を一番評価するのは、この年齢にしてすでに、将来にわたって変わらないであろう得点スタイルを持っているところです。
たとえば、4月の初めに「ペララーダトーナメント」という大会がありました。レアル・マドリードやベティスなども出場しましたが、建英の所属するバルサのアレビンCチームと、ビジャレアルとの決勝戦になりました。
その試合中のゴール前、半身の状態で左足にパスを受けたシーン。そのまま前に行って右足でシュート、と誰もが予測します。が、その瞬間に左へ切り返し、左足でまいてシュートを決めた。
今後、年齢が上がるにつれて切り返しの速度やシュート力が磨かれるでしょうが、このスタイルそのものはずっと変わらないはずです。ゴール前でこういう受け方をすれば確実にこのパターンで得点がとれる、というそんな型を、他にもいくつも持っています。
また、建英は試合の中ではゆったりといくところと、一気にギアチェンジする緩急の付け方がすごいですね。メッシなど一流選手によくありますけど、8割の力でやっていて、ここぞという時には100%の力を出す。そんなこともできるのです。
5月1日にチームがリーグ優勝を決めた試合映像を見たのですが、建英がボールを持った瞬間、「ドリブルで行くな」とわかりました。その通り、1人で3、4人をかわしてそのままシュートを決めた。後で本人に聞くと、
「あの時、交代のラインにニル(チームメート)が立っているのが見えたんだよ。俺が代えられるんだな、ここで入れとかなきゃ、と思って」
と言っていました(笑)。思っただけでなく実際に得点できるのが凄いところです。
――評価の高いメンタルの強さについては、どう思いますか?
浜田 ご両親の育て方は大きいでしょうね。お父さんは、徹底して「考えさせる」ように心掛けてきたと思います。建英を子ども扱いせず、常に自分で考えるクセをつけさせたのですね。だから、建英は感情を爆発させる前に、冷静に考えることができる。
スペイン中からガキ大将が集まってきているような現在の状況は、相当なストレスになっているはずです。ましてや、たった一人の日本人です。その中でよく冷静さを保っていると思います。
それには、もう一点、環境の変化に慣れるように育てられたからでもあるでしょう。小さい頃からご両親がさまざまな環境に建英をあえて放り込み、環境の変化に対する耐性をつけさせた。これは、今日の建英を語る上で、実はすごく大事なポイントなのだと思います。
子どもは親が機会を与えてやれば、相当柔軟に変化することができるものです。弊社が運営しているバルサスクール福岡校のスペイン遠征でも、参加の前後で子どもの様子がガラッと積極的な方向へ変わることが多いです。
サッカー界の将来のためにも、一人の人間として大きく育てるためにも、やはり「可愛い子には旅をさせよ」なのだと僕は考えています。
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