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息子・建英のバルサ入団まで

息子・建英のバルサ入団まで

「本の話」編集部

『おれ、バルサに入る! 夢を追いかけるサッカー・キッズの育て方』 (久保建史 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #ノンフィクション

『おれ、バルサに入る!』(久保 建史)

――2011年、スペインのサッカークラブ「FCバルセロナ」下部組織に初めて日本人が入団した、というニュースが流れました。久保建英(たけふさ)君、当時10歳。そのお父さんが、入団の経緯やこれまでの子育て、サッカー育成歴について書き下ろしたのが本書です(「おれ、バルサに入る!―夢を追いかけるサッカー・キッズの育て方」)。
 FCバルセロナ(通称バルサ)と言えば、ご存じの通り「史上最高の選手」と称されるリオネル・メッシを擁し、世界的な人気を誇るサッカークラブです。若手育成部門の下部組織は、地元スペイン・カタルーニャ地方出身の子ども達を中心に、スペイン全土や海外にも門戸を開いています。
 ただ、まれな例外を認めても、アルゼンチン出身のメッシのケースのように、外国人の入団は13歳以上の子、とされています。
 10歳でその狭き門をくぐった日本人少年とは一体どんな子なんだ? とサッカーファンの関心を集めました。

久保 当時息子が所属していました川崎フロンターレに、たくさんの取材申し込みを頂きました。その反響の大きさに私たち家族も驚きました。ただ、FCバルセロナは育成年代の選手への取材を全て禁止しており、川崎フロンターレ広報担当の方にもその事情をお伝えし、取材は申し訳ないのですがすべてお断りしていました。

――今回、本を出版しようと決断したきっかけは何ですか?

久保 建英の入団当時、いろいろな報道がされました。事実に近いもの、少し違うと感じるものがありました。また直接的、間接的に取組みについて話して欲しいと頼まれることが続きました。そのようなタイミングで文藝春秋さんからお話を頂き、興味を持って頂けるなら正しく伝えたい、出版しようと考えました。

――日本では、あまり小さなうちから海外へ出るという発想がないように思います。どのように決断したのですか?

久保 それはごく自然な流れでした。最初から海外を目指していたのではなく、日本でできる練習や指導を受けるうち、建英自身が「バルサに入りたい」と言い出したのです。6歳の時ですが、それ以降、バルサ入団が建英の目標になりました。

 そこで私たちは、どうすれば入れるかを考えました。結論は、「バルセロナに入る為には、下部組織にまず入ること、下部組織に入ることで可能性が高まる」でした。

 最終的に、バルサ入団までには3つの大きな関門がありました。まず、日本で開催されるバルサキャンプに参加してMVPを頂きました。その特典として、地元スペインのバルサスクール選抜チームの一員としてヨーロッパで行われる大会に出場し、再びMVP。最後にスペインへ渡って、バルサ下部組織の練習に参加しました。

 最後の下部組織での練習参加が実質的な入団テストですが、これは決まった時期にテストが行われるわけではなく、建英の場合はたまたまこういう経緯で入団した、というだけです。

 こうしたことは最初から知っていたわけではなく、随時情報を集めながらの挑戦でした。

――久保さん自身もサッカー経験者ですか? 最初から建英君をプロ選手にしたいと考えたのですか?

久保 私は筑波大学在学中に蹴球部に所属していましたが、トップチームの選手ではありませんでした。子育てを始めた頃、自分が親として何をしてやれるかを考え、サッカーなら親子一緒に楽しめるかもしれない、と思ったのです。後は、建英自身が道を切り拓いているだけです。

――どんな風に育てようと考えましたか?

久保 運動が好きで物事に積極的に取り組む、活発な子にしたいと考えました。

 そのためにこだわったのが、徹底的な外遊びです。朝から晩まで外で遊んだので、就学前の建英にとって、家はただ寝に帰るだけの場所、と言ってもいいくらいでした。

 幼稚園に入る前は、子どもたちだけで遊ぶ自主保育グループに参加し、毎日公園などで遊ばせました。いろいろな年齢の子がみんな一緒に遊ぶので、最初はうまく遊びに入れなかったりしますが、親は手出し口出しをしない、子供達が自分達で遊びを作ったり、問題を解決したりできるように見守る。親も試行錯誤しながら活動した自主保育グループでした。建英はその頃から、友達には「君付け」「さん付け」はなしです。

 サッカーチームに入ってから、建英はいつも1〜2学年上のチームで練習をさせて頂きましたが、年齢や体格差を気にすることはなく、まったく平気、仲間に入っていきました。この頃の経験が下地にあったからだと思います。

 また、妻の考えでは、家の居心地が良いと外遊びをしたがらなくなるというので、いくつかの頂き物以外、家におもちゃは置きませんでした。

 外遊びははだしで、というのもこだわったところです。これは体幹や足裏の感覚を身に付けるために良い、とよく言われますが、確かにその通りだと思います。はだしで大地を踏みしめて育った子は、サッカーシューズの中でも、しっかりと足裏でグラウンドを掴め、俊敏な動きができる気がします。

 その代わり、家の玄関は時々砂でザラザラとする時がありました(笑)。

 子どもが外で「はだしになっていい?」と聞いてきたとき、「いいよ」と言ってあげられるかどうかは、大きな分かれ目かもしれません。家が汚れることや、多少の怪我などに目をつぶっていられるならば、やってみる価値があると思います。子どもたちは本当に楽しそうにはだしで遊びますよ。

 リビングにはソファを置かないということも考えていました。2歳でサッカーを始めた頃は、リビングには大小さまざまな大きさのボールをいくつも転がしておきました。いつもボールを蹴って遊んでいたので、うちのリビングの引き戸は、開閉できないようになったままです。

――建英君に対する評価として、サッカーの技術だけでなく、メンタルの強さや試合運びの良さが挙げられていました。外遊び以外に、何か試みたことがありますか?

久保 まだまだ成長の途上ですが、そう言って頂けるのは、親としても嬉しいことです。

 私たちはサッカー以外にもたくさんのイベントに参加させたので、本人の経験値が上がったこと。それに読書の習慣が良かったのだと思っています。

 家では小さいうちはテレビをつけない、という方針でした。子どもがテレビに見入っている時、魂を抜かれたような表情になることがありますが、おそらくあまりの情報量とスピードに、頭がついていけないのだと思います。

 私も妻も本を読み聞かせてもらって育ちましたので、ごく自然に建英にも同じことをしました。双方の両親から届いたため、家には400冊くらいの絵本があります。子どもは放っておいても自分では読めません。最初は読み聞かせてあげることが大事です。

 そのうちに家の本では足りなくなり、図書館で毎週20冊以上借りて読むようになりました。建英は今でも、わからないことがあると積極的に質問する、と言われますが、本を読んでいる時、わからないと止めて聞いていました。こんなふうに、自分のペースで読み進めるのが読書の良いところです。練習の目的を理解する理解力や試合での判断力など、サッカーをする上でも大事な能力が読書で磨かれたと思っています。

――サッカーの練習は長時間付き合ったのですか?

久保 仕事をしていますから、それほど多くの時間を割いたわけではありません。でも、出勤前の毎朝1時間と休みの日には、ずいぶん一緒に遊びました。小さな子どもと一緒に体を動かすのは楽しいですよね。サッカーの練習をさせた、というより、私自身が楽しかったのです。

 サッカーは基本的に足だけしか使えないという、とても難しいスポーツです。小さな子どもが足でボールを蹴れるとしたら、それだけで凄いことで、見ていて誰でも心が和むものでしょう。

――本書を読んで、子どもが小さなうちに親が教えてあげられることはたくさんある、と感じました。

久保 サッカーの育成について「教え過ぎは良くない」という意見をよく聞きます。この言葉の意図するところは、子どもが自分で考える余地を残さないような直接的な指導法は良くない、という意味だと私は理解しています。「右に行け」とか「ここでシュートしろ」というような教え方ですね。

 私は、サッカーに教え過ぎはないと思っています。何事もそうですが、子どもは教わっていないことはなかなかできないもので、親が助けてあげられることはたくさんありますよ。

――建英君の現在の成績はどうですか?

久保 下部組織でも、トップチームと同じようにリーグが組まれており、地元カタルーニャ地方の同学年と1学年上のチームと対戦しています。お蔭さまで所属チームは現在トップ、建英は今のところ全29試合中28試合出場して42得点、チーム内の得点王です(5月25日現在)。

――今後の活躍が楽しみですね。

久保 下部組織では、一日一日がテストのようなものですから、楽しみというより毎日が戦いです。建英がサッカーに集中できるよう、親としてできることをしてあげたいと思っています。

おれ、バルサに入る!
夢を追いかけるサッカー・キッズの育て方
久保建史

定価:1,320円(税込)発売日:2012年05月28日

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