書評

山はディズニーランドではない

文: 岩崎 元郎 (登山家)

『山で失敗しない10の鉄則』 (岩崎元郎 著)

 それがこの一、二年状況が変わってきた。「登山ブーム」再来のようなのである。ブーム再来は大歓迎である。「適正人数に戻った」「ライフスタイルとして定着」という前言を覆すようだが、ニッポンの元気を取り戻す行動は、登山が一番と考えている。「歩いて健康、登って元気」は持論だ。

 産経新聞の2007年元日号の都内版に、「ガキ大将宣言」を寄稿した。いま(3月11日以前)の日本はおかしい、元気がない。元気を取り戻すには登山が一番、日本中の皆が山に登って汗を流せば元気を取り戻せるはずと考えて、「一億二千万人総登山者化計画」を思いついた。「オレがガキ大将になって、皆さんを山へ連れ出す。一億二千万人総登山者化計画である。山はいい。一歩踏み出せば、暑い、息が切れる、苦しい…。それでいい、それがいいのだ。二本の脚をフルに使って自然の中を歩きまわるべきだ。(略)自然の中を歩きまわってこそ、心身の健康がバランスよく維持される。『健全なる精神は健康な肉体に宿る』という言葉を思いだしてほしい」なんてことを、新聞に書いている。ブーム再来は大歓迎なのだが、ちょっと気になる問題がある。

 長所は短所にもなるということは自明だが、それだけにすっかり忘れられて、長所だけにしか目を向けないということは、ままある。登山が魅力的であることは間違いないのだが、「山」は非日常の世界、一歩間違えると非常に危険な場所なのである。と、いうことに気づこうとしない人が多すぎる。

 高尾山はミシュラン三つ星で大人気の山。ケーブルカーを利用して山頂往復なら、お散歩に毛が生えた程度の軽いハイキング。こんなところで事故が起こるなんてだれも考えない。実際には、転んで捻挫・骨折は日常茶飯事、転んだはずみに頭でも打ったら大事に至る。2009年の北海道トムラウシ山での低体温症による死亡事故も、天気が良かったら楽しい山歩きに終始したに違いない。ぼく自身、20人の中高年登山者を案内して、大雪山の旭岳からトムラウシ山の縦走を2回、問題なく実施している。

 山をディズニーランドと勘違いされている人も多そうだ。午後からフラリと登り始める。日が暮れるということを想像できないのだろうか。午後3時過ぎ、丹沢・大山を下っていたら登ってくる人がいた。運動靴でショルダーバッグだ。東京近郊の山では、半数以上の人が地図や磁石を携行していない、という報告もある。転倒滑落と道迷いは、山岳遭難事故の双璧である。天下泰平の世が続いてきたせいか、山(自然)を甘くみるような風が常態化したツケが回ってきたのだろう。

「悠々山歩き」を新書化するに際し、安心安全登山のアドバイスになるように、内容を書き改めた。題して『山で失敗しない10の鉄則』である。ちょっと固いかなあということで、本の最後に「岩崎元郎のお気に入り百山」を付すことになった。「一億二千万人総登山者化計画」の実際的な行動として考えたのが、「みんなで登ろう、ぼくのふるさと八百名山」。46都府県から各17山、道から18山の計八百山を選定。その中から特に選んだ百山だ。

山で失敗しない10の鉄則
岩崎 元郎・著

定価:819円(税込) 発売日:2011年05月20日

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