食べるのが大好きでちょっぴり太めな杏子(通称アンちゃん)が、高校卒業後、アルバイトとして働きはじめたデパ地下の和菓子屋「みつ屋」。美人でも中身は〈おっさん〉の椿店長、〈乙女〉なイケメン立花さん、元ヤン人妻大学生の桜井さんという個性的なメンバーに囲まれながら、お客様の意外な言動やデパートの不思議な出来事の真相を解き明かしていく、日常のミステリー『和菓子のアン』は、おいしい薀蓄もたっぷり詰まり、多くの読者を獲得した。そして6年ぶりとなる待望の続編が、本書『アンと青春』だ。
「金沢、京都、各地の和菓子屋さんやデパ地下など色々な取材をしましたが、お話になるネタはなかなかすぐに見つからない(笑)。ずいぶんお待たせしてしまいましたが、和菓子は掘れば掘るほどに奥が深くて、アンちゃんのように材料や作り方まで考えると世界がどんどん広がっていきます」
バイトという立場で、容姿にも学歴にも自信のない杏子だが、和菓子の世界を知りたいという気持ちは、人一倍持っている。「飴細工の鳥」という謎の言葉(「空の春告鳥」)、「蓬莱山」というお饅頭にこめた願い(「女子の節句」)など、周囲の人々にも助けられながら、謎解きに挑むことで成長していく。
また新たなキャラクターとして、洋菓子屋「K」で働く柏木さんが登場。「みつ屋のメンバーと立花さんの師匠・河田屋さんとの人間関係は1巻目で美しい輪になっていましたから、それを少し乱す対抗馬として」という作者の狙い通り、杏子が柏木と徐々に親しくなるにつれ、立花との関係がぎくしゃくしてしまったりもする。けれど、それを解きほぐしてくれるのも、やはり和菓子の存在なのだ。
「ものすごく疲れたときって、甘いものに助けられることってありますよね。私の場合、思い返すとそれが〈いただきもの〉のことが多いように思います。この本も甘口ばかりでなく、ちょっと辛めの謎解きもありますが、疲れた誰かを助けるあんこみたいなものになれたら」
さらに今回は、新刊発売に併せた特別企画も実現することになった。
「和菓子屋の若手職人さんの集う〈本和菓衆〉が催事で販売しているお菓子を見て、何か一緒にできないだろうかと連絡をとったところ、非常に積極的な商品提案をもらい、しかも『和菓子のアン』をデパートの方が読んでいてくれたことから、仮想・みつ屋が、4月6日から12日までの期間限定で三越日本橋店の全国銘菓展にオープンすることに! 自分でも毎日、買いに出かけたいくらいです(笑)」