タイトルはインパクト大。でもひどすぎないか? そんな第一印象を拭えないのが、平山夢明さんの2年ぶりの新刊、『デブを捨てに』だ。なぜこのタイトルに?
「ボリス・ヴィアンの小説に『墓に唾をかけろ』とか『醜いやつらは皆殺し』ってあるでしょう。俺もそんなタイトルの小説が書きたかった。そのとき『デブを捨てに』という言葉が突然ひらめいた。絶対に忘れられないでしょ? しかもこの表題作は雑誌掲載から、大幅に書き直してる。最初はデブが無抵抗に捨てられる話だったけど、どうもしっくり来ない。原因を考えたら主人公のデブに対して、上から目線になっていたから。だからこいつがどんな人間か、すべてを失っても大事にしているものは何かを徹底的に見つめ直してみた。そしたら少し希望の持てる話になったんだよね。それでこの短編集のテーマもよりはっきりしたんだ」
平山夢明の小説世界の住人たちは、進退窮まった人々ばかりだ。何もかも失い、空腹のあまりキャラメルを万引きする男(「いんちき小僧」)や35年前に家族を捨てて、今は日雇い仕事で糊口をしのぐおっさん(「マミーボコボコ」)、頭が禿げた風俗嬢(「顔が不自由で素敵な売女」)……どうしてこんな人たちばかりが登場するのか。
「俺は元々社会から落ちこぼれた“ダメな人”が大好き。言ってみれば“マイナス方向に成功”してる人だよ。この短編集に登場するのは、みんなが頭の中で切り捨ててしまう人たちなんじゃないかな。思うにまかせない人生を送ってる人ってすごく人間臭い。だからシンパシーを感じてしまう」
平山さんの言葉は、奇をてらったものではない。創作の原点には、常に人間に対する真摯な好奇心がある。だから小説の中で残酷描写が繰り返され、胸の悪くなるようなシーンが描かれても、決して下品にならない。
「今は人に対する興味が薄いよね。話題になるのは、年収はいくらか、仕事は何をしてるか、どんな実績があるかと。それは人そのものじゃなくて、人の足跡の話をしているだけ。人に興味を持たないと、人間は心が弱くなるよ。人に興味を持つということは、火にあたるように、人に“あたって”その人の人間性に触れることだと思うんだ。そうやって人の中に自分の居心地の良さを感じられるのが、幸せってことなんじゃない? だからこの短編集では、俺が思わず手をかざして“あたりたくなる人”を書いてみました」
登場人物もエピソードも胸やけするほど“濃厚”。だが、読後に清々しさが残る不思議な1冊だ。
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