2015.06.10 書評

短編小説を長編に大改稿
ついに誕生した最高の「ガリレオ」

文: 東野 圭吾

『禁断の魔術』 (東野圭吾 著)

 連作集『禁断の魔術』が刊行されたのは2012年の秋です。四作の書き下ろし中短編小説を収録した、著者としても会心の一冊でした。

 中でも特に気合いを入れたのが、「猛射つ(うつ)」でした。枚数にして約二百五十枚。中編というべき分量でした。もう少し書き足して長編にしようか、という考えが頭をよぎったこともありました。

 ガリレオシリーズはこれまでに長編が三作出ていますが、それらの作品は短編とは意図的に色合いを変えています。科学トリックは控えめにして、人間ドラマをじっくり描くことに傾注しました。『容疑者Xの献身』など、ストーリーに物理学は殆ど無関係です。

 その分、短編では、大いに科学トリックを駆使しました。不可解な謎を科学的に解明してこそガリレオ湯川で、このシリーズの本筋はそれであろうと考えているからです。

「猛射つ」も科学トリックが中心の物語です。だから連作集に入れるのが形としてはしっくりくるので、最終的に中編のままで収録されました。ちなみに、『禁断の魔術』という連作集のタイトルは、元々「猛射つ」単体に付けたかったものです。

 しかし連作集として刊行した後も、この作品のことは頭から離れませんでした。もっといろいろとできたのではないか、人物を描けたのではないか、面白いストーリーになったのではないか、と。

 やがて文庫化の時が近づいてきました。私はこれが最後のチャンスだと思い、「猛射つ」を長編に書き直させてもらえないかと担当者に頼みました。担当者は少し驚いたようですが、最終的には快諾してくれました。残りの三つの作品は、その前に刊行される『虚像の道化師』に合わせて収録する、ということで話がまとまりました。

 こうして「猛射つ」の長編化に着手したわけですが、読み返してみて、なぜ心残りだったのかがはっきりとわかりました。せっかくの大きなテーマを作者自身が十分には理解しておらず、形ばかりの扱いになっていたのです。

 この作品で自分は一体何をやりたかったのか。常にそのことを考えながら、改稿作業を続けました。やがて主人公だけでなく、脇役や悪役にいたるまで、一人一人の生き様や心情が私の中でしっかりと形を成してきたのです。これは中編「猛射つ」として書いていた時にはなかったことでした。

 こうして『禁断の魔術』という長編小説ができました。ここに登場する湯川学は、「シリーズ最高のガリレオ」だと断言しておきます。

禁断の魔術
東野圭吾・著

定価:本体630円+税 発売日:2015年06月10日

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