インタビューほか

NHK朝ドラ「とと姉ちゃん」で話題の「暮しの手帖」。伝説の編集者・花森安治とすごした日々を語る

「本の話」編集部

『花森安治の編集室 「暮しの手帖」ですごした日々』 (唐澤平吉 著)

忘れられない記事は「湯たんぽ」と「マリーさん」

――修業期間を経て、初めて自分で担当された記事のことを教えてください。

唐澤 「湯たんぽのよさを見直す」(第2世紀28号、1974年)ですね。お正月休みに考えながら書いた原稿でしたが、休み明けに読んだ花森さんが「よく書けてる」とほめてくれました。

 花森さんが人の文章をほめることは滅多になかったですし、一度失敗をすると次のチャンスはなかなか回ってこない。花森さんがどういう原稿に対して怒るのか、OKを出すのはどんな時か、わたしは横で観察し「暮しの手帖」流の文章術を学んだわけです。

――2カ月に1回の編集会議ではプランを少なくとも3つは提出、鎭子さんが順に読み上げ、花森さんが即座に可否を決めたそうですね。

唐澤 「マリーさんがならんだ」(35号、1975年)という記事を書いたんですが……。これは、花森さんが急に入院をすることになったときに、電話で奥さんに荷物の指示をしていて、最後に「マリーさんも入れておいて」と言ったんです。花森さんがそこまで好きなビスケットってどんなのだろう、と興味をもち、企画を出しました。

 明治屋にすぐ行って森永、不二家など国産のほかに輸入品など5種類のマリービスケットを買って食べ比べ、調べていたら、エドワードというビスケットもあることがわかった。なかなか掴めなかった名前の由来が、編集部の書棚の上段にずっと置かれていたイギリスの古い百科事典で、ようやく突き止められたんです。その百科事典が、じつは明治時代の実業家・五代友厚がイギリスから実際に持ち帰った事典だった――原稿を読んだ花森さんが「堂々と書きやがったなあー」と言ったことを、いまでも覚えています。

――花森さんが亡くなって38年、この本(単行本)を書かれてから19年。「暮しの手帖」というのは、唐澤さんにとってどういう存在なんでしょう。

唐澤 なぜわたしがいつまでも花森さんにこだわり続けるのか――自分でもよく分からないんです。きっとまだ自分のなかで整理されてない部分がある。わたしにとって、それほど花森安治という天才編集者は大きな存在ですね。

 いまわかるのは、「研究室(編集部)」というハードがあり、「花森さん」というソフトがあり、「暮しの手帖」が生まれていたんだ、ということ。そこに関わった人たちみんなの、花森安治像があると思うんです。ここに書いたことは、自分が見た舞台裏の一面、花森さんのほんの一部分に過ぎないけれど、何らかの形で書き残しておきたかった。文庫化を機に、花森さんのことを知らない若い人たちにも、ぜひ読んで欲しいですね。

唐澤平吉(からさわへいきち)

著者近影

1948年生まれ。72年より「暮しの手帖」編集部に8年間在職。現在、「花森安治装釘集成」(限定版)の準備を進めている。長野県箕輪町在住。

花森安治の編集室 「暮しの手帖」ですごした日々
唐澤平吉・著

定価:本体640円+税 発売日:2016年04月08日

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