ふと思った。
テレビ番組は、まるで「打ち上げ花火」のようだ、と。
煌びやかに夜空を彩り、一度に大勢の人に見てもらえるが、ほんの一瞬でたちまち消えてしまう。
一方、本は、長時間に渡って燃え続ける「樹幹火(じゅかんか)」のようだ。
くすぶり続け、なかなか消えずに残るしぶとい火だ。
本書も当初は本当に小さな種火であったが、やがて炎は大きくなり、今は小さな火になっているものの未だ消えず、燃え続けてくれているように感じる。
二年前に刊行した単行本『辞書になった男』は、有り難いことに未だに話題にしていただいている。春の入学シーズンは一年の中で最も国語辞書に対する関心が高まる時期だが、その恩恵にあずかり、この時期に本書を手にとってくださる方も多いようだ。
本書の元となった番組が作られたのは、今から三年前。地上波での放送ではなく、BS放送でのイレギュラーな特別番組だった。放送前には全く番宣も流されなかった。日々流れる膨大な数の番組の中で、テレビ欄の片隅にひっそりと置かれた、本当に地味で目立たない番組だった。自分で書いていて情けなくなるが、実際にあの当時はそんな扱いの番組だった。
だから、番組だけであれば、もうとっくに忘れ去られ、今では誰からも顧みられない存在となっていたかもしれない。
だが、こうして本に書いた「ことば」は今なお形を変えながら、テレビほど多くの人ではないものの、確実に読者の元へ届けられ続けている。
そして、この度、より多くの人が手にしやすい文庫版を刊行することができた。今、こうしてこの本を手にしてくれている読者の方にも届けることができた。そのことを心より嬉しく思う。
平成二八(二〇一六)年四月二四日
(「文庫版あとがき」より)
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辞書に秘められた興奮と切なさ
2014.03.06書評
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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