虐待による「心身喪失状態」
そもそも、「死ぬほど働く」というのは、通常の人間の状態ではない。確かに、日本には昔から過労死があったが、それは中高年で、家族を支える必要があり、それなりに責任と給与が保障された管理職に多く見られたものだった。
近年の若年過労死・自殺・鬱の背後には、“意図的に心身の喪失状態に追い込み”、理性を剥奪して働かせ続けるブラック企業の労務管理戦略がある。
本書で紹介するのは、まず「洗脳研修」の実態だ。入社後に、山にこもらせ、徹底的な自己否定をさせる。携帯電話などの通信手段も奪い、完全な密室状態で圧迫し続ける。こうした「洗脳研修」は、今ではビジネスとして社会に広がりを見せている。
次に、就労後の圧倒的な長時間労働と過酷なノルマである。常に数字と長時間労働に追われ続けることで、私生活や通常の価値観が破壊されていく。
こうした価値観の破壊を促進するのが「虐待」である。無意味な叱責、暴言、暴力などは、自尊心を含め個人のアイデンティティーを「戦略的」に剥奪するための手段なのである。
このようなブラック企業の社員たちも、はじめはまじめな「やる気」をもっている。飲食店や介護の現場で、「お客様のために」頑張ろうというのだ。しかし、長時間労働と虐待が続くことで、こうした「正常なモチベーション」は、ことごとく打ち砕かれ、ただブラック労働の奴隷と化していくのだ。
こうした状態を、私は「心神喪失状態」での労働と名付けることにした。――精神病で倒れるほどではないが、正常な価値観や私生活を維持できない状態――このぎりぎりの極限状態こそが、ブラック企業にとってもっとも「うまみのある状態」なのであり、この状態に若者を仕上げていくことこそが、ブラック企業の労務管理の本質なのである。
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