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「ブラック企業、なんで辞められないの?」の謎を解く

「ブラック企業、なんで辞められないの?」の謎を解く

文:今野 晴貴

『ブラック企業2 「虐待型管理」の真相』 (今野晴貴 著)


ジャンル : #ノンフィクション

虐待による「心身喪失状態」

今野晴貴(こんのはるき) 1983年、宮城県生まれ。NPO法人POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍(労働社会学、雇用対策)。著書『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)で大佛次郎論壇賞受賞。2006年、中央大学法学部在籍中に、都内の大学生・若手社会人を中心にNPO法人POSSEを設立。年間2000件の労働相談を受けている。ブラック企業対策プロジェクト共同代表も務める。
http://www.npoposse.jp/

 そもそも、「死ぬほど働く」というのは、通常の人間の状態ではない。確かに、日本には昔から過労死があったが、それは中高年で、家族を支える必要があり、それなりに責任と給与が保障された管理職に多く見られたものだった。

 近年の若年過労死・自殺・鬱の背後には、“意図的に心身の喪失状態に追い込み”、理性を剥奪して働かせ続けるブラック企業の労務管理戦略がある。

 本書で紹介するのは、まず「洗脳研修」の実態だ。入社後に、山にこもらせ、徹底的な自己否定をさせる。携帯電話などの通信手段も奪い、完全な密室状態で圧迫し続ける。こうした「洗脳研修」は、今ではビジネスとして社会に広がりを見せている。

 次に、就労後の圧倒的な長時間労働と過酷なノルマである。常に数字と長時間労働に追われ続けることで、私生活や通常の価値観が破壊されていく。

 こうした価値観の破壊を促進するのが「虐待」である。無意味な叱責、暴言、暴力などは、自尊心を含め個人のアイデンティティーを「戦略的」に剥奪するための手段なのである。

 このようなブラック企業の社員たちも、はじめはまじめな「やる気」をもっている。飲食店や介護の現場で、「お客様のために」頑張ろうというのだ。しかし、長時間労働と虐待が続くことで、こうした「正常なモチベーション」は、ことごとく打ち砕かれ、ただブラック労働の奴隷と化していくのだ。

 こうした状態を、私は「心神喪失状態」での労働と名付けることにした。――精神病で倒れるほどではないが、正常な価値観や私生活を維持できない状態――このぎりぎりの極限状態こそが、ブラック企業にとってもっとも「うまみのある状態」なのであり、この状態に若者を仕上げていくことこそが、ブラック企業の労務管理の本質なのである。

【次ページ】2015年「残業代ゼロ法案」で他人事ではなくなる!

ブラック企業2 「虐待型管理」の真相
今野晴貴・著

定価:本体780円+税 発売日:2015年03月20日

詳しい内容はこちら

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪

今野晴貴・著

定価:本体770円+税 発売日:2012年11月19日

詳しい内容はこちら

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