インタビューほか

公開対談 辻村深月×円城 塔
小説で“事件”を描くとは

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(別册文藝春秋 2014年7月号より)

第150回を迎えた芥川賞・直木賞を記念して行われたフェスティバルでスペシャル対談が実現! 小説家はいかにして「事件」と向き合い「事件」を描くのか? フィクションの新たな魅力を発見する 辻村深月×円城 塔 白熱討論

月曜日の朝は気持ちよく

円城 最近は、僕、普通に年を取っていこうと思っていて、いずれは僕も歴史小説を書いてるかもしれない。「信長が……」とか。

辻村 それはそれで、すごく面白そうなんですけど。

円城 もう、素直にね「その時信長はどんな気持ちだったのだろう」みたいな。

辻村 信長にこだわりますね(笑)。

円城 やっぱり僕は、形式を変えると話せる内容が変わっていくことが目新しくて、それを面白がって小説を書いている感じなんでしょうね。次から次へとおもちゃをとっかえひっかえ、とまでは言いませんけれども、いろいろやりたい。

辻村 でも、円城さんが歴史小説を書いても、たぶん読後感は変わらない。円城さんの小説でしか得られない読後感ってあるので、ジャンル云々ではなく、円城さんが好きな人は円城さんの小説が好きなんだろうなっていう気がします。

円城 物書きは大概そうだろうと思うんですけどね。

辻村 そうか。

円城 辻村さんが「ミステリーの人」と自己認識するのはどうしてですか。

辻村 小説の中で事件を起こすでしょう。それが人の死なない事件であっても、解決の仕方を、自分が読んできたミステリーの中からしか学べないんですよ。これまで読んできたお手本のずっと本歌取りをしているという意識があるので、人が死ななくても、謎のない小説を書いても、「ミステリー作家の書いた小説だね」って言われたい。

円城 舞台が他の惑星でも?

辻村 はい。「SF設定使ってるけど、彼女やっぱりミステリーしか書けないね」ってSFの人に悪口を言われるくらいでちょうどいいかなって(笑)。 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』という小説で最初に直木賞候補になった時、選考委員の方から「小説家はなぜ人の不幸を書くのかという問題にきちんと対峙している」って言っていただいて、その時に初めて「なぜ私は人の不幸を書いてるんだろう」ってハッと気づいて、考えたんですよ。ミステリーの事件って、やっぱり誰かの不幸なり悲劇と重なっていることが多いので、ミステリーを書く以上、私は人の不幸に寄り添う覚悟みたいなものをしないといけないんだな、ということを思いました。

円城 幸せしか起こらない話は書きづらいでしょう?

辻村 そうですね。

円城 ずーっと幸福感があふれてると、自己啓発書に近い感じで小説になりづらい。

辻村 小説の中の幸せっていうのは、すごく闇が深かったり、不幸なことがあったりした上で、それを抜けた先にある光の強さを描くということだと思います。

円城 辻村さんの小説は、不幸も不幸のみじゃない。最後ちょっと上がることが多いですよね。

辻村 はい。意識して上げるようにしています。自分がOLだったことがあるので、日曜の夜に読んで、陰鬱な気持ちで月曜日出社してほしくないっていう気持ちがあるんです。

円城 へえ、それは僕は考えたことがなかった視点。

辻村 あ、そうですか。別にアンハッピーエンドでもいいんですよ。だけど、やっぱり本を閉じた後、翌日に「あの主人公、あれからどうしたのかな」と思ってもらえる瞬間があったら、それは読後感がいいということなのかなと。

円城 僕はどっちかというと「読んでて寝てしまう」と言われることが多いので、じゃあ、睡眠薬として使うのがいい(笑)。

辻村 日曜の夜に読んで……(笑)

円城 眠れない夜でも、読むと寝られる。

辻村 それは爽快な月曜の朝を提供していますね(笑)。

円城 突き詰めると面白いと思うんですよね。薄いんだけれど、誰も最後まで読めない本(笑)。すごい薄い本で、「俺は5ページまで読んだよ」「へえ、どれどれ」って手にとって、読んだら寝る。そういうのができると楽しいなと思ってしまう。

辻村 じゃあそういうのもお待ちしています。

円城 トリックのネタに使われそう。「ああ、この本か」みたいな。

辻村 この本だから眠らせることができたんだなって?(笑)

円城 バカミスじゃないですか(笑)。

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別册文藝春秋 2014年7月号

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特設サイト第150回記念「芥川賞&直木賞フェスティバル」(2014.01.29)