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公開対談 辻村深月×円城 塔<br />小説で“事件”を描くとは

公開対談 辻村深月×円城 塔
小説で“事件”を描くとは

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(別册文藝春秋 2014年7月号より)

出典 : #別册文藝春秋
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

家族に怒られないように

――さて、そんなお2人にこれから話していただくテーマは「小説の中で“事件”を描くとは」。辻村さんは、直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』の中で、殺人、放火、窃盗、誘拐と、いろんな事件を起こしてらっしゃいます。円城さんの作品中でも、空から人が降ってきたり、死者がよみがえったり、やはり劇的な事件が起きています。フィクションの中にせよ、小説家は事件を起こす首謀者です。いかにして小説の中に事件が立ち現われてくるのかということをお話ししていただければと。

辻村深月 つじむら・みづき
1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞を受賞。『太陽の坐る場所』が映画化され、今秋公開予定(矢崎仁司監督)。近著に『盲目的な恋と友情』。

辻村 円城さんの事件の起こし方、すごく気になるんです。どういうところから最初に発想するんですか?

円城 あまり怒られないように、というのは気にしますが。

辻村 (驚いて)ええっ? 怒られないように?

円城 具体的な例で言うと、親とか。僕があんまりリアルな殺人事件とかを書くと親は心配するんじゃないですかね。「大丈夫?」なんて電話かかってきたりしたら嫌だなと。

辻村 優しい! 以前、円城さんから聞いた話ですけど、円城さんが作家になるってお母さんにご報告したら、お母さんから「ナルシストも大概にしなさいよ」って言われたと。円城さんも素敵だけれど、お母さんもさすが円城塔の母親だと思って(笑)、私、大好きなエピソードなんですが。

円城 辻村さんはご家族のことは気になりませんか。

辻村 うちは、家族が読まないふりをずっとしてるんです。作家になった最初の頃、親から自分の小説について何か言われたら絶対すごいケンカになりそうだから、「読まなくていい」とあらかじめ強く言って、だから表向き読んでないことになってます。でも、既にいろんなところから綻びは見えていて、先ほどの『オーダーメイド』が直木賞の候補になった時、読んでないはずの母親から「えー、『本日は大安なり』じゃないの?」って言われたり、「お母さん『ツナグ』が好きなんだけど、今度のはまた怖いやつだ」と言われたり……。

円城 でも(小説は虚構を描いているという)フィクション認定はしてもらってるんですよね?

辻村 まあ、さすがに家族は。『鍵のない夢を見る』で育児ノイローゼになっていくお母さんのことを描いたら(「君本家の誘拐」)、まわりの友達からは……

円城 「大丈夫?」って言われた?

辻村 そうなんです! 電話かかってきて、「つらくてもう読んでいられなかった」って言われたりもしたんですけど。

円城 あれはお子さんを産む前に書いたんですか?

辻村 産まれる前に構想だけあって、その時は、虐待の話を書こうとしてたんですよ。

円城 ……大丈夫?(笑)

辻村 ハハハ、大丈夫です(笑)。世の中でいま、育児がものすごく大変と言われてるから、きっと出産を経験したら、虐待するお母さんの気持ちが私にもわかるに違いないって思ったんですよ。でも、いざ産んでみたらまったくわからなかった。

円城 もっとわからなくなった。

辻村 そうなんです。わからなくて、どうしようかなと考えて、じゃあ赤ちゃんが誘拐される話にしようという流れです。

円城 なるほどね。

辻村 それであらためてわかったのは、現実をそのまま小説に書くのだと、それはやっぱり小説にならないと。

円城 ならないんですよね。そこはフィクション慣れしてない人の勘違いがあって、「自分の劇的な人生を公表したいのだが、どうすればいいか」って、日系アメリカ人の方に聞かれたりしたことがあるんですが、たしかに「写真花嫁で結婚」みたいな話を聞くと、とても劇的で小説っぽいトピックスがあるんだけど、劇的すぎて小説にできない。

辻村 わかります。

円城 劇的であればあるほど、構成をちゃんと考えないと書きづらいんですよね。なので、お話として成立しうるかたちの中に盛れるくらいのほどほどの事件を扱わないと、自伝とか伝記にはなるかもしれないけれど、小説にはならない。そこの兼ね合いで事件を選んでる感じはありますね。

辻村 やっぱりむき出しのままのリアルと、「こういうことが起きそう」っていうリアリティって違うと思うんですよ。

円城 まったく違いますね。

辻村 『鍵のない夢を見る』の短編には、あえてすべての題名に「放火」とか「殺人」という犯罪の言葉を入れたんですが、現実にあった事件をむき出しのまま書くんじゃなくて、「明日起きてもおかしくなさそうなこと」「これから起こりそうなこと」を探していったような気がしています。

【次ページ】教科書には載りたくない

別册文藝春秋 2014年7月号

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